刃牙道 第3話 退屈



地上の王者、サム・アトラスは刃牙の姿に驚く。
デカくて重い奴らとばかり戦ってきたのだ。
逆に言えば小さくて軽い奴なんてこれっぽっちも経験がないだろう。
いや、ヘヴィ級なので当然ですが。

しかし、バキ世界において小さくて軽い人間に弱者 はいない。
むしろ、強者揃いである。
柳だって……あいつは本部に不覚を取ったのがダメすぎるな。
一応、数少ない刃牙を倒した男なのに。

「ナルホド」
「刻み込まれた無数の古疵……………」
「この若さで歴戦の兵ということだ」


驚くアトラスだったが刃牙の象徴とも言える身体中の傷を見て認識を改める。
身体の傷は刃牙のキャリアを物語っているものである。
激闘を潜り抜けてきた証なのだ。
でも、この傷の多くが夜叉猿との戦いでついたものなんだけど。
もちろん、以降の戦いでついた傷もあるのだろうが、大部分は夜叉猿戦である。

「!!!!!!!!!!!!!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」


と、ここで第2話の締めを飾ったエイリアンを展開する刃牙である。
ガタいで圧倒できないならイメージで圧倒している。
だから、妖術師なんだよ、お前は。
ヘタなムエタイならこれだけでチビりかねんな。

幻術は一瞬で収まったらしく、アトラスはすぐに本来の刃牙を捉える。
それでも幻術のインパクトは強く一見少女に見える少年と驚く。
少女……男の娘?
いや、やっぱりいい。ごめんなさい。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

そして、刃牙が次に見 せたのは巨大なクモだった。
得体の知れないエイリアンからちょっとレベルが下がりましたね。
これならちょっとは倒せそうか?
幻術を見せる人間なんて倒せる倒せない以前の問題の気もするが。

ともあれ、審判の小坊主から懐かしの武器の使用を禁じることを勧告され試合開始である。
武器さえ使わなければ何をしてもいい。
そのことに改めてアトラスは戦慄して汗を流す。

「アットラスッ」「アットラスッ」
「アットラスッ」
「アットラスッ」「アットラスッ」「アットラスッ」「アットラスッ」

「わたしのコール!!?」


不安に怯えているようにさえ見えるアトラスを観客たちは声援で鼓舞する。
地上の王者もここでは子供扱いだ。
侮辱にも捉えられるこのエールでアトラスの闘争心は再点火する。
エイリアンに挑む気満々だ。

「一目でワカるハズだッッ」
「バキ・ハンマの体重(ウェイト)はわたしの半分だぞ!」
「都合10階級を跨いだ“怪物”ボクサー あのマニー・パッキアオでさえ…」
「ヘヴィ級には挑まない…」
「伝説や神話が越えられぬ 体重(ウェイト)差の壁」


ここでアトラスがすがったのは体重差という現実である。

まぁ、相手はエイリアンを見せる怪物もとい変態だ。
現実にすがらないとやってられんな。
心の中で観客に同意を求める辺り、けっこう参っているが。
でも、あれですよ。素人に体重を見切れというのは無茶のような。

さて、体重とは格闘技において絶対的な指標である。
そして、ヘヴィ級の下りはかつて幾度か使用されているフレーズだ。
あのアイアン・マイケルだって語っている。(範馬刃牙第74話
逆に言えばアイアン・マイケルレベルがすがるものなんだけど。

体重だけで勝てるならリーガンが最強ですよ。
そして、刃牙は2倍どころか3倍の体重差さえ幾度も覆している巨漢キラーだ。
アトラスはバキ世界ではわりと珍しく常識人だが、常識人故に墓穴を掘っている。
強者に常識は不要なのだ。
常識がない故に強者になったのか、強者になった故に常識がなくなったのかは判別が難しい。

しかし、麻 仁アキオとマニー・パッキアオが同居しているなんてややこしい世界観だ。
まぁ、マホメド・アライとモハメド・アリが同居している世界なので今更ですが。
この辺、バキが帰ってきたと感じてしまう。

「このわたしをどうしてくれるんだい?」
「嗚呼……………なんて愉悦(たの)しいんだ!!!」


アトラスの闘争心に火が付いた。
ファイティングポーズを取って刃牙に突進する。
実力はわからんがこうした態度は好感が持てる。
いい人なんじゃないだろうか。新世紀の加藤ポジションみたいな感じで。

アトラスはガタイという現実を覆されたことがないのだろう。
それほど絶対的なモノだった。
だが、目の前の相手はそれを打ち破るかもしれない。
そう思うと好奇心が混乱や(幻術への)恐怖心を乗り越えたのか。

ともあれ、試合開始!
第2話でも述べたがアトラスはインタビューでも触れられたキャラだ。
入れ墨を彫ったキャラが好きだという山本“KID”徳郁選手に入れ墨キャラを出すと語ったほどだ。
さすがにここまでやってただの噛ませ犬で終わらせ るはずがない。

「非の打ち所のない………………」
「完全なる決着だった………」


はい! いきなり後日談です!
って、もう負けたのかよ!
せっかくそれなりに褒めたのに!
さすがにここまでやってただの噛ませ犬で終わっちゃったよ!
何というか、こう、全てを失った感じがする。
全然失っていないけど失った感じがする。

「バキ・ハンマは………」
「明らかに退屈していた」


そんなわけでプールで試合のことを思い出すアトラスであった。
闘争心と好奇心が入り交じった状態のアトラスに対し、刃牙は退屈していたようだった。
退屈する側だったアトラスがよもや退屈される側に回るとは……
皮肉と言わざるを得ない。

「足の甲への踏みつけに続く―――」
「至近距離からのハイキック」


けれどもそれを見たからといってアトラスは止まらない。
動きを止めてからのハイキック!
統合格闘技を生業とする男らしい選択肢である。
まぁ、刃牙にはかわされるんですけどね。
それも表情を一切崩さず当たり前のようにかわされる。

「―――とここまではフェイントだ」
「隠された“絶対”の右ストレート」


が、ハイキックさえフェイント!
真打ちは右ストレートである。
恵まれた体格だからこそなし得るダイナミックな連携だ。
右ストレートは第2話に出てきた挑戦者を切って落 とした必殺の一撃である。
絶対の信頼と絶対の必殺を乗せた絶対に絶対の一撃!

「躱される」

それさえもあっさりとかわす刃牙だった。
表情はけだるそうだ。余裕にもほどがあるということか。
何かもう普通にかわされすぎてアトラスのコメントさえそっけない。
もうちょっとこう詩的な表現とかできませんかね?

「直後―――――」
「捕まった!」

「人類(ヒト)の力ではなかった」
「引き剥がせない 握力130キロのわたしがだ」


刃牙は万力を連想させるような強力で両手でアトラスの頭部を掴む。
握力130キロを持つアトラスでさえ、人類の力ではないと称するほどのものだった。
凄いには凄いけど何か微妙な。
なお、ギネス記録は192キロだそうで。

「そして…」
「揺すられた…らしい…」


そして、刃牙はアトラスの頭部を高速でゆすった。
脳震盪を起こし勝負ありだ。
かつての勇次郎のような行為である。バキ第266話
勇次郎級の筋力がなければできないことだが、逆に言えば勇次郎級の筋力を持っているということか。

技を用いない筋力だけの暴力とは刃牙らしくない。
勇次郎との戦いを経たことでその強さの質そのものが勇次郎に近付いたのか。

近付いたのは強さだけでなく精神性も近付いている。
何せ退屈しているからだ。
父の域に近付いているのは進化か、成長か、それとも袋小路か。

アトラスはぐうの音も出ないほどのぼろ負けを喫した。
観客的にもあっけなさすぎて面白みのない試合だった。
圧倒的な強さだけを見せつけられた。単なる虐殺ですよ。
それでもアトラスは満足げだった。
退屈ばかりのアトラスが退屈を感じる余地もなく負けたからか。
いや、刃牙の行為に好感を覚えていた。

「彼はナイスガイだ…」
「余りに弱者のわたしを気遣い」
「欠伸を…噛み殺していたんだ…」


それって普通に失礼じゃないか?
そもそも欠伸しようとするな。
いや、退屈であることを隠そうとしただけマシなのか?
ううむ、よくわからん。
わかったことはバキがムカつくということだ。
勇次郎が退屈なのと刃牙が退屈なのでは心証がまるで異なりますな。

ただ負けて晴れ晴れとしているアトラスの態度は立派だ。
いい人ですね。常識人だし。
ファイターとしては実力不足だし再起不能かもしれないが、応援役や驚き役として再登場してもいいのではないだろうか。
もしかしたらアイアン・マイケルみたいに刑務所に突然入っているかもしれないけど。
……アイアン・マイケルもいい奴だったと思うよ?

こうして刃牙はその強さと退屈を披露した。
勇次郎との戦いを越えて別次元へ行ってしまった。
同時にその精神性は勇次郎に近付いてしまった。
そんな刃牙を退屈させない強者は現れるのだろうか。
今週を締めくくる第4話に続く!


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