範馬刃牙 第137話 会談



闘争心に火の点いた刃牙は放っておこう。
いや、放っておいていいのか?
いいんだろうな。
いや、よくないよ。
でも、いいか。
よし、放っておこう。


舞台はネチョネチョすぎる昼の病室から夜の繁華街へと移る。
そこを歩いていたのは彼の範馬勇次郎だ。
無論、いつもの漆黒の胴衣姿である。
不審者すぎる。
でも、この不審者スタイルのまま、刃牙のデートをストーキングしても気付かれなかったんだよな(バキ9巻)。
おかしすぎておかしくないのかもしれない。

繁華街の中央と堂々と歩く勇次郎の姿を見た町人たちは誰も彼もが足を止める。
そりゃあ不審人物が歩いているんだ。
嫌でも足を止めるよ。

だが、話は野生へと飛躍もとい移る。
サバンナでインパラがチーターに出逢ったらどうするのか?
圧倒的瞬発力を誇る捕食者チーターを前にしてインパラは何をするのか?
何もできない。

[我が身に起きた悲運…………… あまりにも絶望的状況に全身がすくみ]
[一歩も動けないのだ]


捕食者と被食者には絶望的すぎる戦力差がある。
故に、一切の抵抗をする気力を失う。

それと同じことが繁華街で起こっていた。
何もかもが一般人とは次元の違う勇次郎を目の前にして、人々は理性ではなく本能で動きを止めるのだ。
さすが立っているだけで同士討ちをさせる男である。
決して明らかな不審人物だから皆足を止めているわけではないのだ。

人間の枠を超えた戦闘力を持つ勇次郎だからこそ、その強さが勇次郎の存在を知らない町人にも伝わっていたようだった。
ただ歩くだけでその強さが伝わるのだ。
ある意味、歩く公害だ。

でも、刃牙はまだ歩くだけで周囲の人々を畏怖させるに至っていない。
勇次郎と並ぼうとするのならば、その域にまで達しておかないとダメだろう。
それとも勇次郎みたいに変な迫力を発散していないのか?
最大トーナメント終了直後の刃牙はクラスメイト全員を無意識のうちに恐れさせていた。
だが、それもそのうちなくなった。
もしかしたら刃牙は無理して範馬オーラ(仮称)を抑えているのかもしれない。

勇次郎は歩くだけで人々の動きを本能レベルで止めさせる。
ならば、勇次郎と同等の非生物力(※1)を持つピクルはどうだったのだろう。
…勇次郎ほど足を止めさせていないな。
足を止めさせるどころか、風俗に勧誘されている。
失態だ。何が失態なのかわからないが、失態だ。
…強さ云々の前に勇次郎が妙な迫力を出しているのがいけないのかもしれない。

(※1)非生物力
人間じゃねェ…を示すステータス。
基本的に範馬一族の非生物力は非常に高い。
非生物力を上げるには生物を超越した行動を行うといい。
砂糖水14リットル飲み干したりSAGAったり。


さて、勇次郎はどこへ向かっているのだろうか。
勇次郎はこれでけっこう物臭だ。
目的地まで自分の足で歩くことはあんまりない。
よく他人に車を運転させたりしている。
そんな勇次郎が自らの足で歩いて向かう。けっこうな用事なのだろう。

そして、勇次郎の前にある男が現れる。
眼帯に傷だらけの顔…勇次郎と同等の不審人物の空気を漂わせているのはご存じ愚地独歩だ。
そう、独歩は勇次郎を呼んだのであった。

ここに二人の不審人物が合流した。
勇次郎と独歩の周りには人がいない。誰もが距離を空けている。
立っているだけで周囲を威圧する二人であった。
ちょっとは抑えてください。

独歩は勇次郎をバーへと誘う。
勇次郎を酒に誘う…普通ならば考えもしない。
そして、勇次郎がそんな誘いに応じることも考えもしない。
かつて死闘をまみえた二人だ。
勇次郎にとって愚地独歩という男は特別な存在なのかもしれない。

バーの中は独歩と勇次郎に店主の3人だけだ。貸し切ったのだろうか?
独歩と勇次郎が並んで座っているというのも異様な光景だ。
片や胴着。片や眼帯で顔面傷だらけ。
絵面として、おかしい。

「俺の一言だとォ………?」

「あの一言なかりせば」
「一人息子克巳は――――」
「今もあのままだったろう」


勇次郎が86話で克巳にひどすぎる説教をした。
あの一言が克巳をピクルとの戦いへと駆り立て、それによって大きく成長した。
もしも勇次郎の説教がなかったら克巳はダメ克巳のままだったことは想像に難くない。
勇次郎は克巳VSピクルの影の立て役者だったのだ。

独歩は勇次郎に感謝しているのだろう。
勇次郎の説教によって克巳は変わることが出来た。
でも、勇次郎の説教があったからこそ、右腕を失うまで戦うことにもなった
克巳が半端なままだったらコキャられたかもしれないけど、食われるところまではいかなかっただろう。
勇次郎の説教には功罪の両面がある。

しかし、独歩は克巳が化けたことを嬉しく思っている。
半端なままで果てるよりだったら、華々しく化けて死ね。
我が子へと寄せる感情は厳しい。
その厳しさをわかりつつも答えられない歯がゆさが克巳にはあったのかもしれない。

さて、ここはバーだ。
当然、酒が差し出されるというわけで、店主は勇次郎にカクテルを作る。
しかも、それをただ差し出すのではない。
グラスに表面張力ギリギリまで盛った上で勇次郎へと渡した。

「お口のほうから―――― 迎えてあげて下さい……………」

うわ無茶言っているよこの店主。
そりゃあグラスギリギリまでカクテルが盛られている。
手に持って飲もうものならこぼれるだろう。
だが、相手はあのワガママ神範馬勇次郎だぞ。
なぜ自分が合わせる必要があるのだ。貴様の事情など知ったことか。
表面張力などに付き合う気はないだろう。
あと台詞だけ見るとちょっとえろい。

これは独歩の勇次郎への茶目っ気なのかもしれない。
あの地上最強の生物が頭を垂れて、グラスに口を付ける…
写真を撮れるものなら撮ってみたくなる。

店主からの挑戦状に勇次郎はどう迎え撃つのか。
…指を上げる。
それだけで店主は冷や汗を出す。
お前は頭を垂れないのか、俺に跪かないのか、服従しないとは客であるという身分を知らないのかと焦っている。
いや、それどんなネウロの犯人だよ。

勇次郎は掲げた指をグラスのすぐそばに落とし、テーブルを叩く。
その衝撃でグラスは中空へと飛び上がる。
顔面の位置まで来たところで勇次郎は素早く手に取り、カクテルを飲み干す。
表面張力を上回る早業だった。
店主は驚愕し、独歩も感心する。

ピクルが力で食すのならば、勇次郎は技で飲み干す。
見えにくい部分でピクルに対抗しているのだろうか。
あと範馬一族らしくパフォーマンスが大好きだ。
普通にやれることを普通にやらないのが範馬一族の真髄である。
…セックスとか。

「猫が獅子に変貌(ばけ)ることもある」
「出来損ないのボンボンとしては――――上等の出来と言えるだろう」


勇次郎が克巳を褒めた!
これはすごいぞ。
息子の刃牙ですら滅多に褒めない勇次郎が克巳を褒めたのだ(なお、刃牙を褒める時は徹底的に褒める)。
出来損ないと前置きを入れてから褒めるというのも、何だか勇次郎らしい。
ともあれ史上最強の生物に尊敬されるだけでなく、地上最強の生物にも認められた。
克巳の株がどんどん上がっていく。

また、克巳が打ち立てたマッハ突き理論は勇次郎をして驚愕に値するものだったのかもしれない。
勇次郎の辞書にもない身体操作だったことだろう。
特にファイナルマッハ突きは勇次郎ですら真似する気にならない技に違いない。

と、そういえば、何で克巳のことを評価しているのだろう。
あの場に勇次郎の姿は見られなかったはずだが…
密かに観戦していたのだろうか。
ストライダムの姿も見られなかったし、勇次郎を接待していたのかもしれない
球場に暴れ狂う野生が、側には猛る地上最強がいる。ストライダムがストレスで死んでしまいそうだ。

「しかし愚地独歩よ」
「貴様等は重大なミスを犯している!!!」


ゲエ!褒めた直後にダメ出し!
前回、克巳の戦いを否定できるのは勇次郎くらいだと書いた。
実際にそうなってしまった。
ダメ出しは勇次郎の得意技である。

だが、勇次郎がダメ出ししようとしているのは克巳だけではない。
独歩を含めた戦士たちにダメ出しをしようとしている。
何を突っ込むのだろうか。

これでも世話を焼きたがるのも勇次郎だ。
ダメ出しによって戦士たちの闘争心に火を点くことを期待しているのかもしれない
次回へ続く。


次回、勇次郎による説教タイムである。
演説と説教は勇次郎大好きの項目だ。
梢江にセックスを挑まれて悶々としている刃牙を説教した時は伝説になる勢いであった。
今回の説教もあの時のような熱いものになるのだろうか。
期待が持たれる。
…待て。何で刃牙と梢江への説教が伝説とか言っているんだ?
おかしいぞ、それ。

重大なミスとは何なのであろうか。
勇次郎らしいオーガイズム溢れる無茶な指摘をするのか。
それとも普通に欠陥を指摘するのだろうか。
勇次郎の思考は常識から逸脱しているので先が読めない。

烈と克巳は自分の全てをぶつけるためにピクルと戦った。
勝利は二の次だった風潮が見られた。
特に克巳は勝ち負けの戦いではないと自分から言っている。
もしかしたら勝利への執念が足りていないことが不満なのかもしれない。
いや、勇次郎の考えていることはわからないけど。

しかし、ノリノリな勇次郎だ。
独歩に呼び出されてわざわざ出向く。
バーには律儀にも並んで座る。
カクテルを差し出されたら一芸を見せながら飲み干す。
おまけには叱責までかけようという心算だ。
久しぶりに独歩と言葉をかわせるのが意外と嬉しいのかもしれない。

そのノリノリを息子にも発揮してやればいいのに。
いや、刃牙には別の意味でノリノリだけど。
じゃあ、ジャックにノリノリになってあげよう。
そういえば、刃牙には構えどジャックは無視している。
弱い方の息子には興味がないということだろうか。
興味を少しくらいは持ってやってもいいのに。

そんな勇次郎とは対照的に刃牙は何をやっているんだ?
せっかく闘争心に火が点いたのに、また出番なしかよッッ。
烈の時も火が点いたと思ったら長い間放置されることになった。
同じように今回も放置されるのか?
ピクルと拳をまみえる時は遠い未来だな、これだと…



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