範馬刃牙 第216話 最危険地帯



原田コーチにバカって言われた!
例えるなら本部にバカって言われたようなものだ。
ついでに本部にバカと言われてしまうような行為は大抵は正しい。
ん?そうなると原田コーチのバカ!は遠回しな応援なのか?


ワーレフは巨体に似合わぬ軽快なステップを踏む。
身長237cm、体重151kgに見合わぬ動きを前に、烈だって唸る。
原田コーチだって「あんなに動けるのかッッ」と驚く。
おい、原田コーチ。お前は驚くな。
ワーレフのファイトスタイルを知らなかったのかよ。
あるいは過小評価をしていたのだろうか。
それとも生で見るワーレフの動きは違うということか?

まぁ、ワーレフが見せたフットワークは実はこれが初出なのかもしれない。
隠し球でびっくり箱だ。
ガーレンが月面宙返りするくらいの意味があります(要するに無意味)。

そんな華麗なフットワークを見せるワーレフに対し、烈は背中を向ける
まるで普通のボクシングには興味ありませんって感じの態度だ(実際、ないんだろうけど)。
不遜にもほどがある。
たまりません。これぞ烈海王という立ち振る舞いだ。

そして、めまぐるしいフットワークを見せているのに、烈との距離がさほど詰まっていない。
これは本当に演出のためのフットワークなのかもしれない。
ただ相手と観客に見せるためのフットワークなのだ。意味などない。
烈は棒立ちで待っていると、ワーレフは勝手に息を切らしてわふぅと倒れるかもしれない。

さて、こうして前回のラストに繋がるわけである。
原田コーチが叫ぶ。
烈の取った行動とは…コーナーに中腰で構えるというものだった
ボクシングにおけるコーナーは危険地帯だ。
相手のパンチをステップでかわすことができない。
烈は自ら追い詰められた状態に持って行った。

しかし、コーナーに自分から行く…
思ったより普通だった。
アライ・猪狩状態とか金的とか考えた私が馬鹿みたいだった。
変化球が多すぎて直球に対応できなくなっている。

「わたしを前にしてコーナーにつまる…………………」
「ボクシングにおける最危険地帯に 自ら足を踏み入れる」
「おそらくは君は君なりに その意味するところ―――理解しているのだろうね」


〜〜〜〜ッッッ。ワーレフが喋った!?
しかも、順逆自在の術、逆解説だ。
(相手の技や作戦を自ら解説する戦法。精神的優位に立つことができる高等技術)
「大男 総身に知恵が回りかね」と烈に揶揄されたのだが、ワーレフは頭が回るタイプのようだ。

でも、巨躯に中途半端な頭脳って逆にマイナスイメージだ。
いっそのことピクルみたいに頭脳ゼロの方が強く見えるぞ。
半端に礼儀正しかったガーレンの失敗を忘れたのか?
知識だけで強くなれるのなら、本部だってもっと強かった。

まぁ、試合中に私語をやってしまった。
普通ならレフェリーの注意が行われる。
そして、今回の試合にはレフェリーがいる。というわけで、早速注意だ。
烈に対して。
…アッルェー?

レフェリー曰く烈には立って戦えということだ。
ボクシングは座って行う競技ではない。
下半身への打撃はないんですよ。金的だってないぜ!

「君こそ立てとはどういうつもりだ わたしは座っているのではない」
「腰を深く下ろし 間違いなく立っている」


だが、この烈。容赦せん。
レフェリーに対して堂々と反論だ。
減点が怖くないのか、こいつ。
いや、ノールールで戦ってきたんだから、判定勝ちなんて毛頭にないか。

烈は中腰+両手でロープを掴んでいる。
まったりスタイルだ。遅延行為とも捉えられそうだ。
事実、そう捉えたからこそ、レフェリーは注意を促したのだろう。
ワーレフの私語を無視してしまうほどだ。

「わたしは彼ワーレフとファイトするつもりはない 殴ったり殴られたりするつもりはない」

「制するのだ ジャブの一つも打たせずに」


さらにワーレフを挑発する烈であった。
ファイトするつもりはない…
ワーレフとの試合を試合と思っていないということだ。
烈にとって、ワーレフとの戦いは本当に試し割りのつもりらしい。

これにはワーレフだって静かながらも怒りを露わにする。
白目ですよ、白目。
白目の達人烈に対して白目で挑むとは愚かな…
烈は笑う時も白目になる男だ。並みの白目ではかなわんぞ。

ワーレフはレフェリーにどけと言い放つ。
お前まで減点される気か?
久し振りに登場した審判だったが、その権威はまるでなかった。
巨漢胸毛ロシア人ボクサー以下だよ。
勝てるのはムエタイくらいだよ、審判。

試合は再開される。
怒ったように見えたワーレフだったが、その表情は歓喜の笑みに包まれていた。
無駄毛に笑いが冴えるぜ。
これが諦めの境地だろうか。

[巨人ワーレフは歓喜していた
 想像すらしていなかったミステリアスなファイティングスタイルとの出会い
 そしておそらくは―――
 否――――――――間違いなくそれを突破するであろう自分に……]


まだ勝てる気でいるのか、お前は!?
いや、もう諦めてもいいんだよ、ワーレフ…
お前は現れた瞬間から負けが決まっていた男だ。
この期に及んで自分の勝利を信じなくてもいい。
その無駄毛で勝てると思わないでください。
花山だってかつてはあったすね毛は処理したんだ。きっと、克巳だってすね毛を処理している。
まずは無駄毛を剃れ。話はそれからだ。

烈はロープから両腕を離し、腰の前へと拳を持ってくる。
同時にワーレフが動いた。
原田コーチのそれよりも速いと言われるジャブだ。
一流ですら当たることを前提に繰り出されるもの、それが最速の打撃、左ジャブである。

でも、ジャブですら当たらないのがバキ世界なんだよな。
あとジャブよりも迅い打撃がたくさん転がっている。
ジャブというのはボクシングの枠に囚われてしまった打撃なのかもしれない。
ジャブる暇があったら金玉を蹴る。
それがグラップラーの教えである。

烈は双眸はワーレフのジャブを捉える。
同時に動き出す。
その動きをワーレフは感じ取る。ジャブはフェイント、本命は右という青写真があるかもしれない。
が、次の瞬間、ワーレフの視界が漆黒に包まれる。
ワーレフ、大混乱だ。

烈のやった行動は至極シンプルだった。
ジャブをかわしながら接近し、ワーレフの視界をグローブで覆った。それだけだった。
グローブをはめていることで烈の手の面積は増大している。
それを利用してワーレフの視界を塞ぐことに成功した。
極めて原始的な策だが、ワーレフの意表を突くことには成功している。
汚いなさすが中国武術きたない。

加えてリーチを無力化するほどの烈の瞬発力も見逃せない
237cmという膨大なリーチをかいくぐり、一瞬でゼロ距離まで接近した。
片脚を失ったというのに、相変わらずの脚力である。
むしろ、片脚になったことで烈は残った左足に磨きをかけたのかもしれない。
ボクシングジムで站椿していたのは、脚力増強のための鍛錬だったのだろうか。

まぁ、ワーレフもアホの子じゃない。
すぐさま烈の手を払いのける。
すると今度は左手でワーレフの視界を塞ぐ。
漫才か、何かと疑ってしまうほどにシュールな光景だ。
ワーレフ…やっぱり、アホの子だよ。
うわ〜止めてよれっちゃん〜(CV:豊崎愛生)とついつい言っちゃいそうだ。

そもそも、視界が塞がれるという危険な事態が起こっているのにその場を動かないのは不味い
お前に足りないものは危機感だ。
ワーレフには油断があるように思える。
圧倒的なまでのリーチの差が、今自分がいる場所は安全地帯だと勘違いさせたのだろうか。

そこでワーレフはまたもや手を払いのけるわけだ。
二度あることは三度あるように、また烈は視界を塞ぐと思ったら烈の姿が消えていた
ワーレフは唖然とする。口を半開きだ。
噛みしめろ!今打撃を喰らうと一発KOだぞ!
いや、噛みしめても一発KOだろうけど。

その時、ワーレフの頬に真横からグローブが触れる
突如消えた対戦相手がそこにいた…もうホラーの世界だ。
ワーレフの冷や汗が重力に反して真上に昇っていく。
少しくらいは漏らしているかもしれない。ここまできたら漏らした方が面白いぞ。
みつどもえだって尿ネタがアニメ化されたんだ。お前も漏らせ!

烈はいつの間にかワーレフの真横に立っていた。
ワーレフの心理的死角を突いた結果と言えよう。
まず、視界を塞ぐことでワーレフを混乱させる。
振り払われてもそれを再度行うことで、ワーレフは烈の姿を確認していないのに正面にいると錯覚してしまう

そして、視界が開けた時には烈はそこにはいない。
ワーレフとしては虚を突かれた形となり、隙が生まれる。
烈はその肉体と技術だけが武器ではない。
マッハ突きという強大な武器を持つ克巳を手玉に取ったように、烈は戦術面においても優れた戦士なのだ

烈はワーレフのフットワークを見て、機動力で勝負しては分が悪いというか面倒臭く思ったのだろう。
こうして自らの脚でコーナーに赴き足を止める。
ワーレフとしてはフットワークを駆使して、その場に追い詰めたかったに違いない。
だが、対戦相手自身が勝手にコーナーへ行ってしまった。
間接的にとはいえ烈はワーレフのフットワークを封じたのだ。

烈は片脚と言えどその瞬発力は健在だ。マッハ突きだって撃てる。
だが、それを維持できるかとなれば、おそらくは違う。
一方向に突き進むことはできても、義足の関係上多方向に、なおかつ幾度もステップを踏むことは難しいに違いない。
基本的に一発勝負の瞬発力なのだろう。

だからこそ、一発で勝負できる環境を作った。
それが一方向からのみ、ワーレフが撃ってくる状況だ。
そうなれば烈の瞬発力を活かすことができる。
あとは視界を塞いで動揺を誘って罠にはめる。
ワーレフの武器であったフットワークとリーチを同時に封じている。

今までのボクサーとの戦いといい、烈はまずは相手の武器を封じている。
相手の土俵で戦って叩き潰すことが多かった烈らしくない。
自分の長所を押しつける戦いをしないのは、片脚を失ったことで衰えを感じたからかもしれない

「無寸勁…」

烈はつぶやく。
これから行う技の名前をつぶやくあたりが親切だ。
転蓮華とか言ってくれるわけですよ。
多分、聞こえていないけど。

僅かに距離を開けた状態で放つ超ショートパンチが寸勁だ。
ならば、完全に拳を密着させた状態で放つパンチは無寸勁なのか?
寸勁零式とかの方が中二病っぽくて格好良いかもしれない。
寸勁卍零式卍とかどうだろう。
寸勁†零式†でもいいな。

そんな零距離寸勁が放たれた。
ワーレフの顔面は歪み、白目になる。
この白目は気を失った意味での白目なのは言うまでもない。

そして、決着がついた。
テンカウントすら数えられず、試合後の新聞で結果が伝えられた。
ワーレフは負けるだけでは済まなかった。
たしかな形での敗北すらも与えられなかった。
やっぱり、巨漢胸毛ロシア人ボクサーって地雷すぎたか。
地雷過ぎて処理すらされない。

[消えた!!!]
[ワーレフの頭!!]


新聞の見出しはこうだった。
あまりの速度にワーレフの顔が捉えられていない写真が掲載されていた。
力を乗せにくいと思われる無寸勁だったが、烈が行えば十分以上の破壊力を生み出せていた。
このまま、ワーレフの顔がどこかへ吹っ飛んでいればユニコーン邪武みたいだったかも。

こうして、本場ベガスの緒戦を烈は見事に終えた。
妥当な結果と言えばその通りである。
だって、巨漢だし。胸毛だし。ロシア人だし。ボクサーだし。
ここまで揃うと負けない方が難しい。
これだけの負け属性がつけば例え範馬一族でも負けるってもんですよ。

烈の戦い方にはその場にいた全員が唖然としていた。
ボクシングの型に囚われない戦いを見せた。
型破りプロモーターのカイザーだって開いた口がふさがらない状態だ。
烈にとってのボクシングは拳さえ使えば何でもありルールなんだろうな。
本当にボクシングの破壊者だ。
範馬刃牙のように試合中に放尿するようなボクサーが出なければ対抗できない

ともあれ、これでボクシング勢の真打ちも動き始めるだろう。
いい加減、Jr.やアイアン・マイケルを超え、烈と対等に戦えるボクサーが必要だ。
…ボクサーってあんな連中ばっかりなんだよな…
ボクシングの未来や如何に。
次回へ続く。


とりあえず、ワーレフは週殺された。
約束された敗北の巨漢である。
いいところが本当になかった人だ。
まぁ、かませ犬は毎回こんなものです。
むしろ、ワーレフはぽっと出にしては試合前の期間が長かっただけ、マシな方と言える。

烈はボクサーに対してボクシング以外の戦術で勝ち抜いている。
麻仁アキオにはボクシングの教科書にないパンチで、黒人ボクサーギャリーに対しては頭突きガードと部位破壊パンチで。
そして、ワーレフに対しては目隠しと無寸勁だ。
実は正面からはあまり戦ってはいない。
あくまでも奇策で挑んでいる。
そのうち、ルーザールーズもやっちゃいそうだ。

だが、正面から戦っても強いのが烈海王だ。
一山いくらの死刑囚とは違うんです。
正面から戦うに値するボクサーが出てくるのだろうか。
…本当に出てくるのか?
ボクサーは下限が低すぎる。アイアン・マイケルですら加藤どころか末堂にも負けちゃいそうだもん。

でも、義足の烈相手に正面から挑んで互角というのも面白みに欠ける。
ハンデを付きでやっと互角…ボクシングの評価が上がることはない。
烈と同じようにハンディキャップを背負ったボクサーが出てくるといいかも。
盲目ボクサーなんてどうだ。
…あれ?これって餓狼伝の巽過去編?

今回、烈は新聞に載る時の人になった。
ついに烈海王メジャーデビューですよ。
せっかくメジャーデビューしたんだから、克巳が応援に来てあげればいいのに。
本来ならば原田コーチよりも克巳がセコンドにいるべきだ。
もしかして、原田コーチって使い捨てられる運命にあるのか?

ともあれメジャーデビューしたんだから烈は賞金首状態だ。
烈の首を狙うファイターが集うに違いない。
数だって集めればボクサーだって輝けるさ。
ムエタイはいくら集まってもムエタイだけど、ボクシングなら…あるいは…

バキではボクシングの立ち位置はかなり微妙だ。
基本的にかませ犬の格闘技である。
であるのに、ユリーやJr.のように物語中の主要キャラとして出てくるし、アイアン・マイケルのように復権を図ることもある(無理だったけど)。
かませ犬なのにストーリーの中核を為すこともある不思議な格闘技なのだ。
やられ方は置いておいて、その立ち位置はムエタイよりははるかにいい。

それだけにこれからどうなるのか、予想しにくい(そもそも、原始人が現れる時点で予想なんて不可能だけど)。
板垣先生はボクシングの国民体育大会に出場したほどの男だ。
ボクシングに対する愛着は深いだろう。でも、扱いはひどい。
だからこそ、化学反応が起こるかもしれない。
今こそボクシングが裏返る時だ!
裏返った結果がムエタイボクサーというオチだったらどうしてくれよう。
あ、でも、マイナスとマイナスを乗算すればプラスになるしイケるか?
ボクシングもつまるところかませ犬には違いないがごく限られた条件でのみ――強敵に転じる!

他格闘技とのハイブリッドなら中国武術と組み合わせるといいかもしれない。
ボクサー海王!そういうのもあるのか!
同じ中国武術家なら互角だ。

でも、海王の株は大擂台賽恐慌によってボクサー並みに下がっている。
ボクシングよりはちょっとマシってレベルだ。
ワーレフだって除海王と戦っていたら結果はわからなかった。
実は烈ってボクサーにほど近い人間なのか…?
争いは同じレベルの人間でしか発生しない!



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