範馬刃牙 第250話 史上最強の親子喧嘩



1ヶ月の沈黙を経てついに親子喧嘩が始まるぞ!
数々の伏線を投げ打って始まっちゃうんですか。
前号によると板垣先生は親子喧嘩の段階になってから打ち合わせはしなくなったらしい。
……漫画家としてそれはどうなんだろう。
いや、ジャックの時点で打ち合わせは無視していたけど(第150話)。

そんなわけで暴走状態の板垣先生は止まらない。
伏線なんてガン無視だろう。
長年放っておかれた親子喧嘩が今始まる!
本当に始まるのかなぁ……


[現実感がない……]
[父親と外食…… 余りにも初めて過ぎて……]


刃牙の前に料理が運ばれる。
ひとつはクロワッサン。
もうひとつは薄い黄色の生地の料理だ。それには割れ目が入っており、そこからは黒い何かが見える。
世界三大珍味のひとつ、トリュフだろうか。
権威否定主義の美味しんぼにおいてもトリュフの評価は高い。
家族団欒の食事としてトリュフのパスタを用意するほどだ。
そんな高級食材を一般家庭が使えるか!

刃牙にとっては未知の料理なのだろう。
美味しんぼは読めど高級レストランには行ったことのない私だって知らない。
そのためか、マネージャーにどんな料理か問いかける。

「黒トリュフを裏ごしに〜〜〜〜〜」
「味付けをオリーブの〜〜〜〜〜」
「和のテイストとして お豆腐と生クリームを〜〜〜〜〜」
「シェフお薦めの〜〜〜〜〜」


だが、マネージャーの解説をまるで理解できていなかった。
これじゃほぼ聞き流しだよ。よく聞けよ。
まぁ、刃牙の人生ではトリュフを使った上に和のテイストを混ぜるという高度な技術を用いたことは一度もないだろう。
刃牙に萌えのテイストとして梢江の水着を挿入するようなものだ。
門外漢なら理解できなくても仕方がない。

テーブルにはいくつものスプーン、フォーク、ナイフが並んでいる。
どれから使ったらいいものかと刃牙の動きが止まる。
むしろ、どれを使ったらいいのかもさえわからないのかもしれない。
私だって困る自信があるよ。

「外側から使用しろ」
「この料理ならスプーンがいい」

「あハイ…」


勇次郎が作法を教えてくれた!
スプーンフォークの類は外側から使う。
タメになる講座であった。

これは前回の刃牙のツッコミに対する勇次郎の返答だろう。
正しいマナーを勇次郎は教えてこなかった。
じゃあ、これからは正しいマナーを教えてやる。
勇次郎の意気込みが伝わってくるというものだ。
勇次郎の弱点がまたひとつ消えた。

つーか、けっこう気にしたんだ、アレ……
妙なところで繊細な勇次郎であった。
でも、刃牙は気付いた感はなさそうだし、親の心子知らずとはこのことか。
よく見るんだ! ツンデレキャラが頬を赤らめている状況だぞ!

勇次郎の指示に従いスプーンでトリュフ豆腐(仮称)を口に含む。
冷や汗を流すほどの美味だった。
この様子を烈が見たらどうするのだろうか。
中国祭壇珍味のフカヒレ、アワビ、ツバメの巣こそが至高ッッッと言ってたらふく食わせるかもしれない。
もちろん食費は神心会持ち。

刃牙は勇次郎の作法を真似ながら食事を続ける。
ウミガメのスープ、伊勢エビ料理、ローストビーフ(っぽい料理)などの絢爛な料理が襲いかかる。
贅を尽くしたものばかりだ。
刃牙の食卓とは比べものにならない。
ここにはメカブのパックなどあり得ない。保存料や防腐剤とは無縁の世界だろう。

比べものにならないが故に勇次郎の刃牙に対する想いが伝わってくる。
刃牙の用意した料理に匹敵するものとして、贅を尽くした高級ホテルの料理を用意したのだろう。
双方の価格帯には天と地ほどの差がある。
味だって前菜ひとつで刃牙料理フルコースを上回るインパクトがありそうだ。
だが、勇次郎にとっての刃牙の料理と高級レストランの料理は同義なのだろう。
だからこそ、ここに刃牙を招いた。
いや、親馬鹿補正によって刃牙の料理の方が上なのかもしれない。

食事を終えマネージャーに甘いもの、つまりはデザートを問われる。
「あの親父がスイーツを! しかも、女子高生に人気のスイーツ!」なんてサプライズを期待したのだが、
スイーツを抜かしてエスプレッソを頼んだ。
デレはすれど媚びる萌えは行わない勇次郎だった。
作法を知らないため、勇次郎を真似ざるを得ない刃牙もそれに習う。

[親父の振る舞いは]
[ここでも見事だった]
[こういう場所での手慣れた様は……]
[真っ直ぐに――]
[誇らしかった]


勇次郎の淀みない作法に刃牙はデレモードを持続する。
わたしの、最高の親父。
やはり、違和感があるのだが。
勇次郎は普通にしていれば普通にしているほどおかしいキャラだ。
もちろん、普通にしていない時は普通にしていない時なりにおかしい。
つまり、全部おかしい。

[思えばあれが開始(はじ)まりだった]

だが、平穏な範馬家は長続きしなかった。
こいつらは平穏な方がおかしい。
F1で安全運転するようなものですよ。
本来の目的に沿わない不自然な在り方だし、それが長続きするわけがない。

平穏を打ち破ったのは刃牙の一言だった。
その一言で勇次郎は白目になる。
それはどうして勇次郎が母を、朱沢江珠を殺したかだった。

「おかしいかな……」
「父親が母親を手に掛けた理由を知りたがること」
「俺は一度だって聞いちゃいない」
「なんで……?」
「なんで親父はお袋を殺したの」


何故、母を殺したのか。
そこに明確な答えはない。
立ち向かう者ならば、例え赤子とて容赦はしない。
それが勇次郎だった。
だが、それでも朱沢江珠を殺したのは不自然である。

刃牙と勇次郎と朱沢江珠。
この家族の中で朱沢江珠の死はまさに特異点と言っても過言ではない。
朱沢江珠の死に対して何を想うのか。
それが解決されない限りは範馬親子は本当の親子になれないだろう。

「小僧っ子の理解力では」
「踏み込んではならぬ領域がある」
「身の丈をわきまえろ」


……勇次郎は答えに詰まっていた。
お前に聞かせる必要はない。
勇次郎らしからぬ逃げにも等しい返答だった。
それだけに朱沢江珠の死は勇次郎にとっても大きな意味を持つことがわかる。

「理解力は問題じゃない」
「知ることは息子としての権利だ」


刃牙は引くことなく勇次郎に立ち向かう。
父と母の関係は刃牙にとっても大事なものだ。
決して引くわけにはいかない。
でも、膝上に脚を乗せるのは行儀が悪いから、勇次郎に怒られちゃうぞ。
それで話題を逸らそうとすれば逸らせる気がしなくもない。

刃牙が長年持っていたヘタれ属性は払拭された。
今なら刃牙のことを主人公と誇れる。
Jr.を金的して首締めたことやピクル相手に妖術を使ったことは忘れてやろう。

勇次郎は無言で立ち上がってテーブルに手を押しつける。
よほどの力なのか、支柱にヒビが入る。
勇次郎の葛藤が伝わってくる。
これはあの勇次郎が答えに悩み、答えを出さない……出せない問題なのだ。

ホテルのマネージャー、野中三夫が再び入室した時、そこには本人曰く一生忘れられない光景が広がっていた。
刃牙が勇次郎の胸ぐらを掴んでいた。
よもや刃牙が勇次郎にこんなことをしている姿を見られようとは……
今までは似たようなことをやろうとしても、直後に酷い目に遭ってばかりだった。

さらに両手で首元を締め上げる。柔道の両手絞のような状態だ。
神をも怖れぬというか、鬼をも怖れぬというか。
何かもう自棄になったような所行だ。
学校で何か嫌なことがあったのか?
梢江にでもフラれたのか?

それと同時に触れてもいないのに勇次郎背後のガラスにヒビが入る。
壁一面に渡るほどのガラスだ。絶景を見渡すための高級ホテルならではの一品である。
それだけに安全性を考慮して、その強度は非常に高い。
それが何の前触れもなく割れた。髪が逆立つほどの怒りがものすごい高周波でも出しているのか?

そう思ったら巨大な地震が起きた。
マネージャー曰く立つのもやっとな地震であった。
これによってガラスが割れたのだろうが……地震程度で割れて大丈夫なのか?
やっぱり、勇次郎が怒りの高周波を……

何かもう無理矢理に起きた地震だ。それは無茶だろう。
だが、この状況下で刃牙と勇次郎の二人は微動だにしていなかった。
勇次郎が怒りの高周波で振動を振動で打ち消しているんじゃないだろうか。
そう疑ってしまうような状況だ。

天災を以てしてもこの親子は止められない。
むしろ、範馬親子自身が天災みたいなものだ。
打ち消し合って±0になってもおかしくはない。

刃牙に舐められてただ黙っている勇次郎ではなかった。
首を締め上げられた状態で勢いよく腰を落とし、身体をひねる。
それだけで刃牙の全身が回った。
かつて最大トーナメントで勇次郎に振り払われた時のように回った。
勇次郎はその膂力に任せるだけでなく、高度な技術だって用いる。
力を用いることなく、ただ力の流れを御するだけで刃牙を崩してみせた。
渋川先生顔負けの見事な合気だった。

刃牙は何回転もして飛ばされて、イスに座り込む形になる。
さすがは勇次郎。絶妙なコントロールだ。
こういう小技も上手いんだよな、この人。
剛速球も変化球も投げられる上にコントロール抜群の投手みたいである。

「出来が悪いとはいえ」
「俺の身体に手をかける意味」
「ワカらぬワケじゃあるまい」


勇次郎に挑戦することの意味は大きい。
本部だってかつては特攻部隊のように勇次郎に挑んだのに、今では前に立たれるだけで戦意を喪失してしまう。
強さに生きる世界の男にとっても、勇次郎に挑むことは畏れ多い。
いや、別に本部だからどうだってわけではないが。

刃牙にとって立ち締めは戯れ同然だったらしい。
何か妙に調子に乗っていてムカつく。範馬刃牙イズムを隅々まで感じさせる態度のデカさだ。
だが、勇次郎を前にハッタリをやれるようになっただけ、刃牙のスケール(あるいは態度だけ)は大きくなっているのかもしれない。
ピクルとの戦いは無駄ではなかった……のか?

親子喧嘩。
それが刃牙が掲げた勇次郎との戦いのキャッチフレーズだった。
決して宿命の対決と言った大層なものではなく、あくまでも親子喧嘩。
あくまでもそれに過ぎないのだ。
勇次郎はそれを肯定する。
そして、親子喧嘩を行う覚悟を決め、戦闘モードに入る。

明らかな勇次郎の戦闘態勢への移行に刃牙はビビる。冷や汗を流す。
さっきまでの余裕のある……というか、生意気な態度はどこへ消えたのやら。

「刃……牙……」
「かしこまれいッッッ」


勇次郎がかしこまれと叫んだ。
偉そうな範馬調で格式たっぷりだ。
でも、そういうのって命令することなのか?
頭が高いって言うくらいだから、言っちゃっていいのかもしれないが。
しかし、勇次郎がかしこまれと言われたらかしこまっちゃいそうなくらいにかしこませられる迫力に満ちている。
相手がムエタイなら即刻土下座しかねないくらいだ。

だが、我らが刃牙は違う。
何せ決戦を前に迎えたのだ。
勇次郎を相手に対等に渡り合える態度を身につけたのだ。
かしこまれと言われたらイスから立ち上がってきっちり直立不動の体勢を取るぞ!
何でお前はかしこまっているんだよ!?
……こんな姿、想像も予想もできないよ。

同時に勇次郎が刃牙に向かって奔り出す。
その腕は軌跡しか見えない状態だ。全力で振り抜こうとしている。
だが、勇次郎と戦うこと前提でトレーニングしてきた刃牙にとっては驚くに値しない(第172話)。
……はずなのに、背を向けて逃げ出そうとしていた。

いやいや、NONONO。
アンタは勇次郎に挑もうとしている人じゃん。
ヘタれ属性が払拭されたとか言った私が馬鹿みたいだ。
刃牙は全然ヘタれだ。何も変わっていない。

尻を叩かれ刃牙の顔が歪む。それと同時に窓が割れる。
何があったのか。
ただホテルの外で機動隊を構えさせていた首相は勘が当たったとドヤ顔をする。
まずはホテルにいる人たちを避難させろ!
ドヤ顔をしている場合じゃないぞ。
というか、ただ構えさせているだけじゃまったく意味がないのだが。
いや、動員させても避難が精一杯だけど。

刃牙はホテルの外へとはじき飛ばされていた。
かつてシコルスキーを突き落とした報いがここで来た。
しかも、勇次郎の力ではじき飛ばされたのだからたまったものではない。
シコルスキーのように壁にしがみつくわけにもいかないので、必死に窓の縁に捕まる。
無事にホテルに戻ったことで窮地を潜り抜けたのだが、その顔は冷や汗に包まれている。
危機一髪にもほどがあったようだ。

一瞬で刃牙を殺しかねない勇次郎の一撃だった。
勇次郎に挑むということはそういうことだった。
刃牙はうっかり失念していそうだったが、無事に生還できたことから心の準備だけはしていたようだ。
これでどげせん並みに見事な土下座で許しを乞うたらどうしたものか。
いや、それはそれでなかなか見応えが……

ともあれ、親子喧嘩が開戦した。
大擂台賽終了後にやる時が来たとか言って既に6年だ。
その沈黙を経て、ついに親子喧嘩が始まったのだ。
だが、刃牙の中には葛藤が渦巻いていた。

[後退(あとずさ)りたい]
[駆け出したい]
[逃げ出したい]


かしこまれと言われてかしこまって、勇次郎が突っ込んできた時に逃げようとしたのは、刃牙としても失態だったらしい。
それほどまでに勇次郎の存在は脅威だった。
そして、刃牙は勇次郎の強さをもっとも知り、もっとも憧れている。
矮小なる自分が挑んでいい存在なのか。
そんな想いがありそうだ。

というか、アンタはそんなことを考えるくらいなのに、勇次郎に喧嘩を売る気だったのか。
武道家は特攻隊じゃない。勝算のない喧嘩はしない。
(本部は勝算のない喧嘩をしたけど)
でも、刃牙は武道家じゃない。勝算のない喧嘩もするのか。
そもそも刃牙は勝算のない喧嘩に身を置くことがけっこうある。
それでオリバやピクルに吹っ飛ばされるのだが、再戦すれば勝ったりする。
この天災めと納得の行かない顔をしなければならない。

[否応なく刻まれる実感………………]
[モノが違う…!!!]


恫喝を受け、逃げだし、はじき飛ばされて、勇次郎との差を改めて知った。
モノが違う。
刃牙は圧倒的な力の差をまたも押しつけられた。
力だけなら平常時の勇次郎を上回るピクルを圧倒したから、勇次郎相手にもそこそこイケそうだがそうもいかないようだ。
あれもピクルの弱点を徹底的に突いたからこそである。
正面からの対決では一瞬で刃牙が負けたことから、力の差は歴然としていた。

刃牙は範馬の血統という何物にも代えがたい資質を持っている。
それだけでも他を圧倒しかねない効力を持つ。
だが、力という点では勇次郎やピクルの地上最強クラスの相手には及んでいない。
それを思い知らされた。限りなく明確なカタチで。

勇次郎は刃牙の右手を手に取る。
あっさり接近を許しちゃってるよ。しかも、利き手を取られた。
このままコキャッとやられかねない。合気でグルグル回ることだってあり得る。
絶体絶命というほどではないが危険度の高い状況だ。
勇次郎を怖れているくせにガードの甘い刃牙であった。

「貴様は悪くない…」
「悪くはないが……」
「父親の頸に手を掛ける」
「この……」
「手が悪い」


勇次郎は刃牙の右手を取ったまま、もう片方の手を振り下ろす。
刃牙の手を潰すつもりだ。
至極シンプルな行為だが、挟まれれば右手がトマトのようにぺしゃりとはじけてしまいそうだ。
指二つで刃牙のグーを破壊したのが勇次郎なのだ(第247話)。
ただでは済まない。

しかし、こんな時にも父親であることを強調している。
この親馬鹿め。
見方を変えればアットホームかもしれない。
ならば、これも刃牙に対する愛情か?
愛情なんだろうな……

勇次郎の手が重なる。プレスマシンのような行為だった。
数百kg……あるいはtクラスの圧力がかかってもおかしくはない。
それだけにホテル全体に響くほどの破裂音が鳴る。
耳を塞ぐほどの轟音である。
マネージャーはガイアの叫びを受けた時のように一時的に聴力と思考を失ったのかもしれない。

刃牙は直前で手を引くことでかろうじて避けていた。
合わさった勇次郎の手からは煙が出ている。
人知を越えた負荷がかかったらしい。
挟まれていたら刃牙は右手を失っていたことだろう。

この力で勇次郎は必殺の鼓膜破りを行ってきたのだ。
恐ろしいとしか言いようがない。
むしろ頭が破裂しないことの方が不思議と言わざるを得ない。
みんながみんな、鼓膜だけでよく済んだものである。

矢継ぎ早に勇次郎は刃牙の臀部を蹴り上げる。
壁を突き破る勢いで刃牙が吹っ飛んだ。
踏ん張ることさえできていない。
妖術を使わなければこんなものなのか?

[少年は理解し始めていた………]
[急所を狙わぬ父親…………]
[闘いではない……]
[これは“仕置き”なのだ……と]

「反省が……」
「足りぬようだな」


刃牙は勇次郎が全力で潰しに来ていないことを察した。
ホテルから突き落とす勢いで吹き飛ばす、右手を潰しかねない勢いで叩く……
ここまでやっておいてお仕置き止まりなのが範馬一家の厳しいところだ。
勇次郎が本気でやれば心臓に達するほどの手刀とか、顔面の皮を剥ぐとか、金玉を潰すとか……
あっさり死ねる一撃が跋扈するんだろうな。
いや、今も死ねるけど。

子を躾けるのに暴力は良くないんじゃね?
そんな軽口を叩く余裕さえ今の刃牙にはない。
いや、次回になったら言うかもしれないが。
そうしたら……それもそうだなとか言って食事に戻ってくれるのだろうか。
今の勇次郎ならあるいは……
GWを挟みながら次回へ続く。


ついに刃牙と勇次郎の戦いが始まった。
あくまでも親子喧嘩というスタンスである。
そのため、勇次郎の攻撃も手心が……いや、ない。
この人、お仕置きで人を殺す気満々だし。手加減しろよ。

しかし、刃牙は大丈夫なのか?
現時点でさえどうしようもない実力差を叩きつけられている。
勝負の土俵に持ち込めるかさえ怪しい。
その辺、やっぱりノープランなのだろうか。

勇次郎は手加減している。とても手加減には思えないが手加減だ。
いや、手加減していないけど、攻撃している部位が急所じゃないだけかもしれないが。
でも、ビルから突き落とすくらいだから、まったく手加減どころの話じゃないか?
ともあれ、本腰は入れていない。

今のうちに刃牙はカスりパンチでも連発して、勇次郎を倒してみてはいかがか。
倒れている勇次郎を踏みつける写真を撮って、その上でネットに上げる。
これで万人が認めている勝者になれるぞ。
やや遅れて刃牙がボコボコにされて土下座している写真が上げられるかもしれないが。

何とも唐突に始まってしまった。
ホテルの中でかよ。勇次郎は徳川光成の報せを待つんじゃなかったのか?
ビッグカードだというのにもったいない。
烈がいればものすごい勢いで解説してくれたのに。

観戦者がいないのはもったいないが、主人公と宿敵の決戦には今までのライバルが駆けつけるのがお約束だ。
観戦者が揃うのはこれからだったりして。
あるいはもうみんなホテルに集っているのかもしれない。
場所はグラップラー力で見つけました。
シコルスキーだけはホテルを見た瞬間、刃牙に突き落とされたトラウマが蘇って遁走する。

それにしても刃牙に明るい未来が何一つ見えない。
ビビり全開である。
こんな状態でよくもまぁ勇次郎に挑もうとしたものだ。
いや、準備が整うのを待っていてはいつまで経っても始まらない。
現に6年間に渡って始まらなかった。
思いつきで始めるくらいがちょうどいいのかもしれない。

さて、今回の、おそらくはこれからの鍵となるのは勇次郎が朱沢江珠を殺した理由だ。
ただ立ちはだかったから殺した。
そう思っていたのだが、勇次郎の歯切れの悪さを見るにそれだけではなさそうだ。

朱沢江珠は勇次郎をしていい女と言わせた烈女だ。
刃牙はあんな烈女を母に持つと梢江クラスの烈女でなければ惚れないだろう。
いや、烈女離れしろという感もするが。

刃牙にとって朱沢江珠が特別だったように、勇次郎にとっても特別だったことは想像に難くない。
いや、刃牙以上に特別な存在なのかもしれない。
朱沢江珠を殺した直後の勇次郎の顔はどこか悲しかった。
その後の大暴れは自分でも理解できない鬱憤……あるいは悲哀を晴らすようにも思えた。

朱沢江珠は勇次郎の暴力に晒されても母という在り方を崩さなかった。
なおかつ、勇次郎を愛する女という在り方も崩さなかった。
女性としてどこまでも強かった。
心が折れることがバキ世界における負けの定義だ。
ならば、朱沢江珠は勇次郎に負けていない。
そして、その朱沢江珠を壊し尽くせなかった勇次郎は……

朱沢江珠のことは勇次郎の抱えている唯一の弱みといってもいいかもしれない。
それが刃牙との戦いで払拭されることはあるのだろうか。
歪んだ家族関係だった。
だからこそ、こうして家族として付き合おうとしているのか。

案外、刃牙と勇次郎の視点は同じなのかも。
だとしたら、勇次郎の料理を見られる日も近いか?
メカブ!
それも本物の!
しかも、自分で取ってきたメカブ!
俺の親父がこんなに誇らしいわけがない。



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