第259話  自由


愚地独歩武血殺しモード発動中だ。
対戦相手は不必要にとばっちりを受けるというか、今現在受けている。
現在のJrは玉潰されて、なお叩きつけられるサムワン状態だ。

「許してあげない」

独歩はとりあえずと言わんばかりに右拳を破壊した。
この場に本部がいれば、「よう見てみい。あれが愚地独歩だ」とわかったように解説することだろう。
そして、傍らの加藤と末藤は「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ」と冷や汗と共に驚く。

右拳だけで済ますわけもなく、独歩はJrに素早く接近する。
迎え撃つJrの顔は汗がほどばしり表情が情けないまでに崩れている。
今のJrは完全に独歩に呑まれている。
なッ、なんという負け犬っぷりだッ!
勢いで失禁しかねないほどの形相に別の意味で驚くしかない。

ベチィッ

独歩の左ハイキックがJrの右拳に命中した。
前回、完膚なきまでに砕いた右拳にさらなる追い討ちィッ!
相手を壊す戦いが独歩の真骨頂だ。
バキ世界屈指の曲者だけあり、怒らすと怖い。
そんな曲者に果敢にも金的を放った加藤はブレイブメンか身のほど知らずのどちらかだろう。
ずいぶん、前の話ですが。

激痛にJrが震える。
当然、その間はめちゃくちゃ隙がある。
そして、独歩が手刀で達人に壊された左拳を責める。
Jrはものすごく痛そうなツラをする。せっかく作ったボックスも崩れてしまった。
これで両拳が潰された。

今のJrはシコルスキー同様にリアクションが派手になってきた。
潰されかけている格闘家はリアクションで地位を確立するしかないため、Jrの選択はある意味では正しいといえる。
もちろん、ある意味では間違っている。
正統派ファイターなら、リアクションで自分を売るのは止めましょう。シコルスキーみたいになりますよ?

このまま、接近戦を維持するのは得策ではないと判断したのか、Jrは素早く距離を離す。
そして、「卑怯だぞ、こんちくしょうッッ」と言わんばかりの形相をする。
うわ…情けない…
前回、何度も踏みつけると凄んだJrはどこへ消えたのだろうか?
数話前からそうなのだが、役者的に崖っぷちだ。

「なんて面してやがる」
「喧嘩で相手の弱点を攻めるのは常識じゃねェか」

嘲笑するような表情で独歩は語る。
Jrの強さは驚異的な反射神経・脚力の強さ・ハンドスピードに支えられたものだ。
肉体的な能力が強さの大半を占めている。
正攻法ではその能力を最大限に活かせるが、反面エゲツない駆け引きにおいては力を発揮できないのだろう。
だが、独歩はそういった駆け引きを得意とする男だ。
この二人、実に相性が悪い組み合わせだ。
Jrの土俵で戦えばJrの圧勝、独歩の土俵で戦えば独歩の圧勝。極端です。
なんだか(果物の)ドリアンとアルコール並みに相性が悪い。(豆知識:この二つを同時に摂取すると倒れます)

Jrは背広を破き、それで砕かれた拳を固める。
即席のグローブの完成が完成した。
グローブは拳を保護するもののため、ボクサーにとっては武器に近い存在だ。
これでJrがちょっとだけ強くなった、はず。
装備するのが遅すぎましたが。
デイブとの戦いで使った18オンスのグローブを装備して戦えば拳を壊されなかったのに。
速さが売りのF1カーにベンツのボディを載せるくらい、間違った考えなのは気にしない。

「カマンッ」

即席グローブで武装したJrが猛るッッ。
まだ、戦いを諦めていないようだ。
ハートの強さは一級品だ。
苦境に見せる極限の気迫は普通に格好いい。

「カマンじゃねェだろ …‥ったく
「グラブができるまで人を待たせておいてよォ」

あ、やっぱり、そこをツッコミますか。
グローブ手作り中は隙だらけだったし。
そして何よりも、せっかくカッコよかった「カマンッ」が台無しだ
肉体的にだけでなく、役者的にも独歩は責めている。
恐ろしいまでの手練手管だ。並大抵の格闘家にはできっこない駆け引きだ。

「ま……いずれにしろ」
「これで少しはカタチになるか……」

また、独歩は無防備に歩いていく。
Jrは素でびびる。
前回、右拳を無防備な接近からの頭突きで拳を潰されたことを想い出したのだろうか?
今のJrには迷いがある。
最速のハンドスピードが武器のJrにとって、この迷いは致命的だ。

Jrは左ジャブ2連で独歩を迎撃した。
したが、どれも独歩にかわされてしまった。
迷いが回避させる余裕を生み出してしまったのか。
いずれにせよ、正面からの戦いで圧倒できないとJrに勝機はない。

左ジャブをかわした後に独歩が飛んだ
鍛えられた脚力から生み出される驚異の跳躍力だった。
そこから放たれるのは飛び蹴りか?
Jrはスウェーで回避できないと判断したのか思わず顔面をガードで固める。
え?ガードですか?
独歩に呑まれているからなのか、Jrの行動はかなり消極的になっている。
蝶のように舞い蜂のように刺すのがファイトスタイルのアライ流は完全に崩れていた。

ガシュッ

独歩はガードを固めた顔面ではなく無防備な足の甲を蹴った。
意表を突かれたのか、見事にクリーンヒットした。
これでJrの武器である強靭な脚力も殺された。
拳も脚も奪われたJrはかなりピンチだ。
これがシコルスキーだったら、放尿でもして失笑を買うところだが、Jrはそういうわけにもいかない。
拳で戦うしかない男だ。
怒りを露にしながらも砕かれた右拳によるフックを放つッッ。

ゴシャッ

――が、独歩の肘打ちで迎撃された。
エルボーブロックだ。
右拳はさらにひどいことになったのは間違いない。

独歩のモデルになったであろう極真館の創始者大山倍達は肘が異常に強かったため、自ら禁じ手にしていたという
モデルだからといって、独歩の肘も異常に強いとは限らないが、それでも十分以上の強さを持っていることでしょう。
人間凶器だし、たぶん鎬昂昇の肘よりは斬れます
何にせよ独歩の肘から生まれるエルボーブロックは完全なボクサー殺しの技だ。
エゲツないです。

右拳の次は左拳で独歩の顔面を殴った。
独歩は普通に殴られた。間違いなくクリーンヒットだ。
だが、独歩にダメージはなく、むしろJrが苦しんでいた。

「ヘッ」
「無理してやがる」

そして、独歩はとどめと言わんばかりに、全力の右正拳突きを左膝に放った。
完璧なまでに見事な正拳突きだった。
空手の真髄を実戦で発揮する独歩の技量はすさまじいものがある。

Jrの左手は人指し指が砕けていた。
達人からの傷だけでなく、今回手刀の追い打ちを食らったので完全に死んでしまったのだろうか。

右手はグシャグシャになっていた。
頭突き、正拳突き、ハイキック、エルボーブロックというどれも致命打となるものを4度も受けている。
完全に死んでいるのは間違いない。

左膝は正拳突きによって砕かれた。
あらぬ方向に曲がっている。
この状態で脚力の強さを発揮するのは不可能だろう。

右足の甲も殺されていた。
自在にステップを踏むことはもう無理だろう。

四肢の全てが使えなくなっていた。
Jr、大ピンチだ。

ところで大山倍達の言葉には、
 右手がダメになったら左手を使え。
 手がダメになったら右足を使え。
 右足がダメになったら左足を使え。
 それがダメになったら頭を使えよ。
 それでもダメだったら呪ってでも倒せ。
 それが極真だよ 君―ッ。

――というのがある。
とりあえず、Jrには頭が残っている。
そういうわけで頭突きをしよう。
木の樹皮をえぐるくらいの硬さを持つ額を武器にすれば、独歩にも対抗できる、はず。

「さァ坊や」
「これで」「武器は全てなくなっちまったワケだ」

独歩が凶悪な笑いと共にJrを見下ろした。
Jrは見上げることもできず、ただ地面を見つめている。
この構図はガイアVSシコルスキーのあるコマに非常に似ている。
Jrのシコルスキー化か?
個人的にはそうとしか見えません。

「俺らはもう帰るがよ」
「続ける続けねェは坊やの自由だ」
「勝手に後ろから襲いかかるもよし」
「敗けたと思うなら放っとくもよし」

「決めるのは坊やだ」

そして、独歩はどこかへと帰っていった。
独歩の決め技は放置プレイだった。
究極の屈辱技だ。屈辱すぎるほど屈辱的な技だ。
そして、Jrは一歩も動けず、ただ涙を浮かべるだけだった。
え〜…とっ…シコルスキー化に加えて、柳化ですか?
役者的に崖っぷちのまま、次号へ続くッッ。

 

Jrは心身共に大ダメージを受けた。
果たして再起は可能なのだろうか。
柳とシコルスキーは再起できぬままに弄られまくったけど。
その上、忘れられているのだから、余計タチが悪い。
柳って結局生きているのか?それとも、死んでいるのか?
まぁ、柳のことは置いておこう。絶対に復活しないんだし。

Jrは放置プレイに涙を流した。
ジャックの時は不敵な台詞を浮かべたのだが、今回は涙だ。屈辱の度合いが違う。
あの時は武器は残っていたため、身体が動かずとも戦いへの意志は消えなかった。
しかし、今回は武器を全て破壊された。心を折られたのだ。
Jrの最大の武器であるハートは折られっぱなしだ。
範馬にも折られなかったハートだが、達人と武神には折られるらしい。

そこで今回(も)出番がなかった刃牙の話をしよう。
刃牙が勇次郎相手に肉体的な面で圧倒するのは不可能だ。
鍛えれば可能になるとかそういうレベルじゃない。次元が違います。
ならば、達人や独歩のように精神的な面を攻めてみてはどうだろうか。
これなら少しは可能性がある…って、勇次郎の精神力はストライダムに『過去のあらゆる人物を凌駕するほどのもの』と語られていた。
あ、肉体でも精神でも勝てないや。
勝ち目はどこにある?
恋人の援護が加われば可能性はなきにしもあらずだが、二人の関係は冷たいしなぁ。

次回は傷ついた心身を癒すべく、梢江とデートすることだろう。
場所はファミレスオーガストに100ペソ賭けておきます。
しかし、今の状態で梢江に遭っても、癒されるどころかダメ押しされそうだ。
運が良ければ言葉の追い打ち、運が悪ければ猛獣の連激で殴られることだろう。
だが、一番怖いのは、梢江が同情しSAGAが開始されてしまうことだ。
少年チャンピオンだけでなく、ヤングチャンピオン・チャンピオンRED・そしてイブニングで同時にSAGAが開始されたら、読者は即死ものだ。
まぁ、梢江エキスを摂取すれば、Jrは別人のように強くなれるかもしれない。
達人と武神を二人同時に相手にして「立テ」とか「歯ァ喰イ縛レイッッ」とか「足腰立タナクナルマデブッ叩クッッ」などと凄んだら泣く
とどめに梢江をお姫様抱っこして「逃ゲヨ(はぁと)」なんか言ったりしたら、遠慮なくチャンピオンを引き裂く。

もっとも、梢江エキスを常人が受ければ死ぬかもしませんが
毒耐性の高い刃牙(というか範馬)だからこそ、真っ向から受け止められたのかもしれない。
でも、もしかしたら刃牙が一時期激ヤセしてしまったのは、毒手ではなく梢江エキスのせいなのかもしれない。
副作用というヤツで強くならないマックシングをしたのだろう。
そして、梢江エキスが自分の命を窮地にさらした原因だとわかったからこそ、今の刃牙は梢江に冷たい、のかも。


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