第266話 挑戦者


Jr.は奇跡の完治をした。
サンドバックを延々と殴っていたら骨折が完治したのだ。
心臓発作で倒れた人間の心臓に釘を刺して治すような無茶な療法だった。
人体ってスゴい。
アライの血筋はもっとスゴい。

何にせよこれで刃牙との距離は縮まった。
達人、武神、範馬、そして父親の洗礼を受けながらも、Jr.は挫けずに復活した。
対する刃牙は梢江とデートしながら、ダラダラと生きているような気がする。
対勇次郎戦のトレーニングはやっていなそうだ。
きっと、ダラダラするのに飽きたからJr.の挑戦を受けたんだろうなぁ。



そんな中、アライ父が泊まっているホテルに不審人物がやってきていた
何の遠慮も躊躇もなくアライ父の部屋へとその人物は歩いていく。
そんな不審人物にボディガードは当然のごとく、「Noッ」「ここからは立入り禁止だ」と注意する。

テコピン
それは――予め始めから決めてあったかのような正確さで男の顎(ジョー)を射抜き
僅かそれだけのことで
男の意識は脳の外へとハジき出された


声をかけたドレッド+傷顔のボディガードはデコピン一発でKOされた。
なんかデコピンという時点で不審人物の正体がバレている。
バキ世界にイロモノは多くいれど、デコピンでKOできる人物は僅か2名だけだ。
そして、デコピン攻撃にやられるのはチャモアン、サムワンなどのムエタイ戦士と相場が決まっている

でも、今やられたドレッドヘアーはムエタイ使いではなさそうだ。
それともいざ戦いが始まればムエタイを使い出すのか?
ドレッドヘアーがムエタイ戦士かどうか判明する前に、ノックアウトされたので真相は謎のままだ。

2人目……………行ったことは頭を掴み――
揺らす………
たったそれだけのことである
しかしその無造作な行為が男にもたらした事態は甚大であった
彼の頭蓋骨内部では脳が内壁へ繰り返し叩きつけられ――
まるでボクサーが強烈なショットを食らうのと同じ様相を呈し
またしても意識は脳の外へと……………


隣にいるグラサンは頭を揺らされただけで昏倒した。
不審人物の力量は恐ろしいものがある。
なんか絵を見る限り、意識どころか魂まで抜け出ているように見える

それにしても、頭を掴んだ時にてっきりジャガると思ったら違った。
この人はムエタイ戦士以外はジャガるつもりはないのだろうか?

「通るぜ」

一瞬でボディガード2人を屠った人物の正体は予想通り範馬勇次郎だった。
デコピンで戦う人は勇次郎と郭海皇くらいだし。

彼らはプロである一瞬にして見抜いた
男の放つ尋常ならざる戦力を示すオーラ


正体を見せるなり勇次郎は髪を逆立たせ、周囲の空間を歪めながら凄む。
これには屈強なボディガードもへっぴり腰になり、冷や汗を流すのみだ。
もし、これが小坊主だったら、目線があった時点で失禁している
さすがプロ。勇次郎を目の前にしてもビビるだけで失禁しない。
でも、失禁しないとはいえこのままだとヤバい。
失禁するのが先か、勇次郎にボコられるのが先か。そんなところだ。

「助けにきたよ」

そんな絶体絶命のピンチに狙ったかのようにアライ父の登場だ。
当然のように満面の笑みだ。
まるで勇次郎がここに来るのがわかっていたような笑みだから怖い。
もし、わかっていたのならボディガードにオムツでも履かせれば良かったのに。
失禁対策になるし、マニアックなプレイにもなるので、一石二鳥だ。



そして、勇次郎は何事もなかったようにアライ父の部屋に招かれる。
そう、地上最強の親父合戦の始まりだ。
そして、これは刃牙対Jr.の前哨戦でもある。
肉体だけでなく、知略と話術を駆使した高度な言葉による戦いもバキの見所なのだ。
格闘家とは思えないペテン師じみた話術に読者が時として、バトルシーンよりも惹かれるのだ。

「スゴいな………」
「驚異的な若々しさだ」

「30年前プロレスラー猪狩との試合(ファイト)に」「東京へ乗り込んだ」
「あの時の印象のままだ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!ある意味でのタブーに触れやがったッッ。
勇次郎は青年期と壮年期を比べてみると、肉付きに違いこそあるものの根本的な身体の造りには大差はない。
実に若々しい鬼父(パパ)だ。
やはり、これが範馬の血なのだろうか。
でも、刃牙は10年後にはめちゃくちゃ老いていそうで怖い。

ところで30年?
じゃあ、今の勇次郎は40代後半と見るべきなのだろうか。
ううむ、40代とは思えないほどの肌のハリだ。
でも、柔肌というよりは金属といった感じの肌だ。
…実は勇次郎も整形体験者だったりして。

「息子(ジュニア)のコンディションは………?」

「チャンピオンバキ・ハンマ」「彼はいったいどのような戦士なんだい」


勇次郎は世話話でもするように問いかける。
社交辞令のような質問だ。
それに対し、アライ父は質問を質問で返した
しかも、内容は「あんたの息子、本当に強いのか?」と問い掛けているようなものだ。
地上最強の生物に対して、己の命を投げ捨てるような質問だ。
バキ世界広しといえど、こういった無謀をできる人間は少ない。
アライ父、侮りがたし。

「曲がり形にも」
「アイツは俺の血を引いているんだ」

「恐らくは」
「地上最強の1人に数えられる」


はひぃぃぃ〜〜〜〜ッッ。
親馬鹿炸裂だよぉッッ!!!
さすが、地上最強の親馬鹿の称号を持つ男だ。
そりゃあもう見せびらかさんばかりに遠慮のない親馬鹿っぷりだ。

勇次郎が刃牙を地上最強の1人だと評価した。
何だか勇次郎の言葉とは思えないくらい、異常なまでの賛辞だ。
勇次郎が刃牙と会話すれば、刃牙を嘗め切った発言を良くする。
会話だけじゃ物足りない時は回転させながら吹き飛ばしたり、壁ごと吹き飛ばしたりする
だが、表面では厳しいなれど、内面ではメチャクチャ親馬鹿しているようだ
いや、わかりきったことですが。

それにしても親馬鹿親馬鹿と今まで何度も言われてきたが、ここまで露骨な親馬鹿は始めてだ。
アライ父とは同じ親馬鹿同士の共有感(シンパシー)を感じ、そのために内面を吐露させたのだろうか?

「だから希望(のぞ)んだのだ」

アライ父と勇次郎は親馬鹿同士、熱い握手をする。
握手なんて勇次郎にしては珍しい。
おそらくは生涯最大最強の強敵(とも)であった郭海皇とも握手しなかったのに。
親馬鹿という種族は強い共有感で結ばれているらしい。

そして、地上最強の息子決定戦まで、残り数日だ。
…残り数日だったんですね。
次号こそは戦いが始まるのだろうか?



なんだかんだで背後にそびえる親馬鹿二大巨頭は刃牙とJr.の戦いが楽しみらしい。
特に勇次郎は楽しそうだ。親馬鹿する瞬間の笑顔は国宝級だし。
とりあえず、バキSAGA直前よりは楽しそうだ。
なお、バキSAGA直前に勇次郎は出てこなかった。
一緒に布団に入った刃牙と梢江に1話丸々使って範馬的説教+演説をしたのに、いざ行為直前となるとまったく出てこない。
でも、出てこなかったのは正解だ。
さすがの勇次郎もSAGAを相手にするのはいささかキツいだろう。

刃牙とJr.の戦いまで残り数日だ。
だが、このまま即決着とはならないだろう。
残り数日になって波瀾が起こるのがバキ世界なのだ。

独歩対勇次郎の時は本部が勇次郎に試合数日前に宣戦布告した。
でも、結果は無残だった。

大擂台賽数日前にして、刃牙は中国拳法の名手と戦った。
張洋王が名手と呼べるほどの腕前かは怪しいが。

一番ヒドイのが達人が柳に挑戦状を叩きつけたのに、勝負開始前に本部が柳をボコボコにしたことだ。
確定していた戦いを台無しにした本部、恐るべし。
ついでに勝っているからもっと恐るべし。

そんなわけで刃牙対Jr.の前に波乱が起こる可能性は高い。
一番ありえる形は刃牙かJr.に何らかの刺客が送られることだ。
いわば、かませ犬だ。
Jr.に刺客が送られると刃牙の出番がもっとなくなるので、刃牙に刺客をお願いします。
「俺はJr.以外とは戦う気はないんだ」とのたうって、刺客との戦いを避けることだけは止めてください。
でも、Jr.の元に武装した本部がやってきて、Jr.を圧倒したら泣ける。

まぁ、波乱の元が梢江になる可能性は非常に高い。
もしかして、結婚を賭けて戦うのかもしれない。
その場合、刃牙はどういう選択を取るのだろう?
わざと負けるのもアリだ。梢江は地球人だけではなく、異星人にも荷が重すぎる。
でも、Jr.もそれを望んだりしそうだ。
そして、勝利を競うのでなく、敗北を競う勝負になってしまう。
松本梢江は勝負という概念を変えるほどまでに恐ろしい存在なのだ。


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