2nd BATTLE





WANGAN…国内有数の超高速ステージである。
SPEEDに餓えた走り屋たちはここで日夜走る最高速の聖地であった。
いつだってEngineの咆吼とEXHAUSTの残響がWANGANを包み込んでいた。
それは横浜最速伝説から20年が経過した今でもまるで変わらない。

だが、今夜は異質なまでの静けさに包まれていた。
DiabloZeta…20年の月日を経て蘇った呪われし最速の偶像…
SPEEDに餓えるばかりではなく、SPEEDに狂ったWARRIORがWANGANに集っていた。
時空を越えた堕天使の饗宴を予感した走り屋たちはすぐさまWANGANを離れる。
人知を越えた狂気のSPEEDの領域…それはOVER300kmの世界でも体験できないまったくの異世界である。



群体に思えるDiabloZetaたちであったが、そのMACHINE COMPLETEには微妙な差違が存在する。
そう、あまりに禍々しさに誰もが気付くことはなかったが、彼らも同じ走り屋でありたしかな個を持っている。
そして、最速に対する想いはDiabloと呼ばれる今でさえ純粋なものである。
真実の瞳で見た時、彼らが纏うPure Whiteのケープが見えた。



鋼のWEAPONは肉食獣のようにしなやかに動き出す。
奏でられる獣の咆吼からは様々な感情が掴み取れた。
狂気、激怒、悲哀、歓喜、絶望…
多くの感情を受け取った数少なきギャラリーは知る。
DiabloZetaと呼ばれる走り屋も一人の走り屋であると。
同じ夢を背負って生きている同じ走り屋であると。



DiabloZetaは最速というカルマを背負っていた。
速く、強く、人々に畏怖と憧憬を抱かせる存在であり続けるというカルマを。
それは彼らが背負う罪であり罰であった。
だからこそ、走る。最速の彼方へ。
今宵も人々に堕天使の翼を見せつける。
そう、最速の象徴として。



DiabloZetaはお互いを食み合い喰らい合う。
その姿は檻の中に閉じ込められた餓えた肉食獣を連想させた。
臓腑に穢れたその姿は醜悪さと同時に強烈な執着心を感じさせた。
WANGANという戦場の中でも生き抜くという決意を。
DiabloZetaは最速の彼方に見える蜃気楼ではない。
ここに在る生命そのものなのだ。



天空に咲き誇るFireworkには使者を呼び覚ます効果があるという。
かつてYOKOHAMAの亡霊がそれに引き寄せられて集まったのだろうか。
答えを知る者は誰もいない。
WANGANを蹂躙する鋼のMONSTERを除いては。



彼らはいとも簡単にOVER300kmの世界へと足を踏み込む。
時は静止する。
過去を唾棄し、未来を超越し、現在を疎外し、永遠を拒絶し、刹那だけを許容する瞬間。
Gail A Moment…その名は最速の瞬間。

その極限のSPEEDの中でだけ共有できる感情がある。
MORE SPEED――
SPEEDの彼方だからこそ、さらなるSPEEDを。
SPEEDこそヒトの本能の具現である。



昂ぶったSPEEDは時間を圧縮し、刹那を永劫の刻へと変貌させる。
無限に等しい瞬間を彼らは幾度も体験する。
それは拷問に等しき責め苦であった。
濃縮された時間は彼らの理性を完膚無きまでに破壊し、奥底に秘めた本能だけを引き出す。
そして、本能を己の概念を研磨し、ある具象を顕現させる。
最速。
彼らは最速という言葉そのものであった。



だが、人はあくまでもヒト。
いくら近付けど神にも悪魔にも最速にもなれない。
そして、ヒトにあらざる領域に棲もうとした代償はすぐに訪れる。
路面とMACHINEを融合させていたタイヤは突如としてBreakする。
GRIPの限界を超えたResponseは膨大な処理量をヒトに与える。
それは無限の知を授けることに似た純然たる暴力そのものであった。
木の葉のように揺れるMACHINEはDRIVERに苛烈なDESTINYを体験させる。



しかし、人がヒトであるべきための試練と制止を振り払い、さらなる領域へと足を踏み込むWARRIORがいる。
己が裡に芽生えた獣性と殺傷本能。
それは神をも穿ち、悪魔へと堕落させる。
人々は畏れる。
獣のカタチをした災いを。



神が与えた裁きを受けても、DiabloZetaはステアリングを握りしめ、アクセルを床まで踏み込むことを止めない。
ちぎれた肉片を気にも止めず、ただ最速のみを追い求める。
もはや未来など寸毫たりとも求めず、刹那に執着するDRIVING…
終わりの始まりであった。
それこそがDiabloの烙印を押される者の宿命である。



傷付いたMACHINEは二度とかつてのFEELINGを取り戻さない。
些細な操作に誤差が生じ、DRIVERとMACHINEの間に齟齬をきたす。
結果、MACHINEは鎖を解き放たれた獣のように暴れ狂う。
だが、熾烈を極める挙動を全身で感じながらDRIVERは笑う。
鉄の塊があたかも意志を持つかのようにDRIVERを拒絶する…
これこそがDiabloZetaの真の姿であると歓迎する。



WANGANの道標、BAYBRIDGEを目指してさらにSPEEDを上げる。
煌々としたその輝きに漆黒の象徴は混ざり合おうとする。
光と闇が合わさり、最速が生まれようとしている。
勝利と敗北、栄光と挫折、全ての罪をDiabloZetaは背負おうとしていた。



群れの前方を走るDiabloZetaを追いかける。
これはSHOW TIMEなどではない。
お互いの限界を競い合うBATTLEである。
それ故に予定調和などない。あったとしても見えざる手があれば、それに噛みつく。
前方を疾駆するDiabloZetaでさえBATTLEの行き先はわからない。



極限に身を置くDiabloZetaの群れを呪われた摩天楼、BayLagoon Towerは見下ろす。
いつだってこうだった。
全てを知るように走り屋を見下ろしている。
だが、過去という楔を噛み切る時が来た。
最速のために全てを捨てる覚悟はもうできている。



棺桶の中でDRIVERは足掻く。
傷付いた身体で這いずり、蜃気楼を掴もうとする。
息も絶え絶えだった。
ただ、生きてきた証を残す。
それだけのために走っている。
そう、最速こそ自分の全てであり、全ての証明なのだ。



轟くEXHAUST NOTESはトンネルの中で反響する。
それは断末魔の叫びに酷似していた。
最速を夢見て走り朽ちていった幾多の亡霊の悲鳴なのだろうか。
振り払うように走り続ける。
だが逃避ではない。前に進むために。



名も無きDriverは何を思うのか。何を考えるのか。何を望むのか。
今は忘我の境地で本能の命じるままに走っている。
しかし、走り抜けた先に何を知るのか。何が待ち受けるのか。
JUDGMENT…審判の時は刻一刻とDriverを蝕んでいく。



長く続いたBATTLEも中盤を越えた。
並みの走り屋ならば既に息絶えているだろう。
それほどのPressureとSPEEDが場に蔓延している。
ボロボロになった彼らを何が支えるのだろうか。
DiabloZetaに乗る誇りか。最速であろうとする意地か。
わかることは同じ夜を走る。
それだけでどこまでも走っていける感覚は、どの走り屋も知っているということだけだ。



語りぐさとなった5速全開のコーナリング…
それは寓話としか思われていなかった。
だが、このBATTLEを目撃した僅かな人々は伝説が存在することを知る。
Driverの技術、MACHINEの強化。
それだけでは乗り越えられない奇跡は彼らの手によって顕現した。



Endless BATTLE…終わることのない鎮魂歌。
悪魔の銘を冠する彼らのエキゾーストは救済を願う咎人の願いに聞こえた。
STREETを走るという罪を今も重ねている。
彼らが最速を目指すのはそれから逃れたいからか。
あるいは最速の果てに希望を見出したからか。
闇色の瞳にのみ、その答えは隠されている。



エスケープゾーンもセーフティカーも存在しないSTREETで、OVER300kmの領域を共に走る。
それも幾重にも絡み合いながら…
この自傷行為にも似た行いを理解できる人間は同じ瞬間を共有するWARRIORだけである。
その時、闇の中に煌めく星の光を見つけた。



長く続いたBATTLEもついに終焉を迎えようとしていた。
栄光なきGOALへと彼らは向かう。
祝福されることなどない。
ただ畏怖されるのだ。
CRAZY DRIVER、横浜最速の男と。



惨劇は起きた。
SPEEDは再び彼らを裏切ってしまう。
それは裁きであった。
背負った罪に見合うだけの罰。



壊れた人形のようにたゆたいながらDiabloZetaは最期を迎えていく。
蘇った伝説はかつてと同じように悪夢へと変貌し、惨劇として人々に消えない傷痕を残していく。
伝説は幻想であると走り屋たちに諭すようにDriverたちは散っていく。
夢の抜け殻が、そこには存在していた。



だが、伝説は幻想ではないと真実の咆吼が、魂のEXHAUSTが奏でられる。
この夜を走り抜いたWARRIOR…
真の最速の男が新たな伝説の誕生を体現していた。
LEGEND Of Never Die――
伝説はいつだってSTREETに転がっている。
最速への憧憬は永遠に終わることがない。



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