ワイルドアームズフィフスヴァンガード紹介






・概要
2006年12月14日、記念すべきWAシリーズ10周年にWA5は発売された。
(余談ながらWA3で5th記念コインで5周年を地味に、セルフで祝っていたりした)
当時、WAシリーズの楽曲をアレンジしたサントラが発売し、10周年記念冊子が発売されたり、
WAシリーズを開発したメディア・ビジョンは公式で通販を始めたり、そこで数々のWAグッズを販売したりと、
物凄い勢いで各方面でWAシリーズに力を入れていた。
通販はかなりのヤケクソさえも感じた。なお、2013年11月現在、まだ通販は行われている(ぶらっくまーけっと)。

WA5はそれほど注力し期待も込められた作品だった。
事実、発売までの期待感は凄まじいものがあった。
WA5を月並みな言葉で表現するなら「すごく面白そう」としか言いようがなかった。
それほど完璧なプロモーションであった。
WA5はSCEを代表するRPGとしての風格は間違いなく備えていたと言える。

だが、皮肉にもその評価はWAシリーズでもっとも安定していない。
あらかじめ述べておくと私のWA5に対する評価も否に傾いている。
WA5発売までの流れでシリーズファンは加熱していき、発売と同時にその熱は急速な勢いで冷めていったように思える。
それが尾を引いたのか、WAシリーズはWA5で実質的な終焉を迎えるのだった。


・WA5で注力したもの
当時、PS2の後継機であるPS3が発売され、PS2は円熟期を迎えていた。
それだけにメディア・ビジョンの技術力も向上しており、他のゲームに勝るとも劣らない一線級のグラフィックを実現している。
こうした経験によってか、その後のメディア・ビジョンはグラフィック関係の下請けを主に手がけるようになっていく。




WA4で大きく進化したキャラモデリングはさらに強化。
PS2トップレベルと言っても過言ではないクオリティに達している。
また、WA4で紙芝居と揶揄されたイベントシーンもアクション付きで描写されている。
イベントムービーもプリレンダからリアルタイムに変わっており、ゲーム中のコスチュームの変化が反映されるようになった。
ややぼやけていた画質も向上している。
総じてグラフィックは今見ても不足に感じないレベルである。



WA4では部分的な採用に留まったグッズはARMのカートリッジとして復活。
ARMはオートロックかつ移動しながら撃つことができる。
そのため、今までのシリーズにあったグッズ使用の煩わしさが大きく減った。
バンバンARMを連射しながらダンジョンを歩き回るのは今までのシリーズにない爽快感があった。
それが例え無駄だとわかっていても撃つのを止められないのだ。
WA4にあったアクションは2段ジャンプとアクセラレイターこそなくなったものの、その他の要素は全て引き継がれている。
WA4で切り開いたアクションと旧来シリーズのグッズを両立したまさに集大成となっている。




フィールドも軽いオープンワールドゲームくらいの広さになった。
当時のメールマガジン曰くWA:Fの16倍らしい。
それが4つのエリア全て合わせて16倍なのか、エリア1つだけで16倍なのかはわからないが、後者でも不思議はないくらいの広さを誇っている。
この広いフィールドを好きに歩くのは楽しく、その景観も美しい。
中盤以降はモノホイールこと非常Σ式・禁月輪で高速移動もできるのでさらに楽しくなる。
間違いなくシリーズでもっともフィールドを歩くのが楽しい。

WA5はWA4での新路線を活かしながら、旧来のシリーズの要素を取り入れており、その点でWA5の完成度は極めて高い。
WA4で不満点として挙げられていたボリューム不足も完全に払拭しており、まさに10周年記念に相応しい仕上がりである。


・金子彰史作品として
WA5はよく作られている。
今までのシリーズは金子彰史のマンパワーに寄っていた部分も多かった。
だからこそ、金子彰史以外の部分がその不満点に上がることになった。
だが、WA5はスタッフの頑張りによってそうした部分が概ね払拭されたと言える。
ここまでに言及したWA5の要素はまさに金子彰史以外のスタッフの尽力によるものである。

さて、金子彰史自身はどうなのか。
金子彰史は伝統のトータルゲームデザイナーを降りて、プロデューサーとしてWA5に関わっている。
シナリオも外部に委託した。
WAシリーズは金子彰史の個性が色濃く出ていた。
その金子彰史の個性をあえて出さないようにしたのがWA5と言える。
これは金子彰史抜きでシリーズとして存続できるかを試したのかもしれない。

だが、WAシリーズの最大の魅力は金子彰史と言っても過言ではない。
シンフォギアでわかるように未だに金子彰史は現役で戦えるほどの爆発力と色褪せない頭のおかしさを持つ。
シンフォギアが人気を博したのも作り込みの細かさ、名曲揃いの楽曲、音楽と融合した演出に加え、
やはり金子彰史の作り上げる物語が大きいのは疑いようもない。
その金子彰史を抜くということはWAシリーズの核となる部分を抜くことにも繋がる。

そんな金子彰史抜きで作られたWA5はどうなったか。
率直に言えばやたらと薄味になった。
金子彰史は細かい部分に自分の味を出して世界観を深めていく。
例えばファルガイアが箸文化だったり、WAXFのラブライナが箸を使わずスプーンで料理を食べたり、
シンフォギアを例に挙げるとクリスがあんパンを食べたり、緒川さんが忍法を使ったり……
一見、好きでやっているだけのように見えて、いや実際そうなんだろうけれども、結果としては世界観に面白さを付与している。
こうした細かな積み重ねがWA5ではなくなったように思える。
積み重ねがなくなった結果、WA5全体から受ける印象がどうにも軽くなってしまった。



もちろん、金子彰史が制作に一切関わっていないわけではない。
一部イベントは金子彰史が書き下ろしており、それらのイベントの頭の悪さはとんでもないものがある。
WA4で切り開いたアクションとしての金子彰史により磨きがかけられており、こうしたイベントの仕上がりは素晴らしく文句なしに面白い。
もとい笑える。
キャラクターでもカルティケヤの清々しいまでの外道っぷりはまさに金子彰史の仕事である。

その一方で金子彰史監修イベントとその他イベントの落差が激しく、どうにも寂しくなってしまう。
WAシリーズは金子彰史の癖の濃さが指摘されることは度々あった。
WA5はそうした癖の強さは大分薄らいだ。
一方でWAシリーズのファンはその癖の強さにこそ魅了されていた。
こうしたシリーズファンを惹き付けていた魅力が薄れてしまったのが、WA5の唯一にして致命的な弱点だった。
WAシリーズは金子彰史がいなければ成立しないことをWA5は証明してしまったとも言える。
シリーズファンは凡百のRPGになったWAシリーズに興味などないのだ。

だが、WA5が金子彰史にとって大きなターニングポイントとなったことは間違いない。
メディア・ビジョンから、WAシリーズから離れてウィッチクラフトを設立したのもWA5の経験が大きいだろう。
上松範康や水樹奈々との人脈が出来たのもWA5が影響している。
WA5はWAシリーズ全体で見ると扱いに困る立ち位置かもしれないが、WA5がなければ今の金子彰史は存在せずシンフォギアもなかった。
ある意味、一番特別なWAなのかもしれない。


・シナリオに関して
シナリオは外部に委託したものをベースにアレンジしたものとなっている。
だからなのか、ハチャメチャでありながらも丁寧で筋の通った金子彰史の持ち味があまり活かされていない。
ネタバレになるがWA5はいわゆるループ物なのだが、
そのループを解決できずに終わるというどうにも後味の悪い結末に特に表れている。

また、中盤まで敵勢力との対立が起こらなかったり、WA2でやっちゃった4つのダンジョンで苦労が4倍だなをまたやったりと、
ほとんどイベントのないただ通過するだけのダンジョンも多いと、
全体的に展開が遅く前述の金子彰史不足と合わせて退屈に感じる場面が目立つ。
通過するだけのダンジョンはオブジェクトの色変えがされているくらいで見た目がほとんど同じだったり、
全体的にダンジョン中の風景がほとんど変わらず新鮮味がなかったりと、
後述のゲームバランスと合わせてどうにものっぺりとした印象を受けてしまう。
(これはWA4並みのクオリティでWA4以上のボリュームを1年半という期間で出そうとした弊害なのかもしれないが)

金子彰史はnot設定マニアだが、それでも入念な設定を作り上げることでシナリオを読み解く面白さを付与していた。
だが、外部委託シナリオのため、設定と密接に絡めたシナリオにし難かったのだろうか。
WA5も設定自体は相変わらずなのだが、そこに遊びの要素が減って物足りなくなってしまっている。


・ゲームとして
WA5はWA4のアクション性と旧来のシリーズのギミックが融合し、
WA4では荒削りと言わざるを得なかったHEXもWA5では大分安定している。
ゲーム部分はよくまとまっているのだ。
まとまっているのだが、WA4の2段ジャンプやアクセラレイターの爽快感や駆け抜けるようなテンポの良さはなくなってしまった。
おとなしくなった戦闘バランスはWA4の無闇にテンションの上がるバランスではなくなってしまった。
言ってしまえば(好みの問題もあるとはいえ)地味である。

バランスに関してはシリーズでもっともまとまっていると言っても過言ではない。
だが、進行中に突然使える装備やオリジナルを手に入れて戦法が一変する、といったことがない。
6人パーティなので定期的にキャラが加入するのだが、性能差があまりないので加入即ベンチでも問題ない。
パーティ入れ替えに1ターンかかるため、戦況に合わせて積極的に入れ替えることも難しく、6人パーティを活かしにくい。
さらにミーディアムでパラメーターや使えるオリジナルが変わるのだが、
使いやすいものと使いにくいものがハッキリしすぎており結局同じようなミーディアムを使うケースが多い。
(同じミーディアムを量産できるのもその傾向に拍車をかけている)
まとまってはいるし実際にそれなりには面白いのだが、起伏があまりないバランスになっているので印象に残りにくい。
もっとも、WAシリーズは全体的にそうと言えばそうなのだが。

なお、ARMで撃ちまくりながらダンジョンを進みたい。
が、そうするとエンカウント率が上がる。
フィールドをサーチしながら進んでいろいろな発見をしたい。
が、そうするとエンカウント率が上がる。
どうにもやりたいことと仕様が噛み合っていないのがうーん。
そんなWA5のキャラ事情。

-ディーン
主人公らしくバランス型キャラ。
だが、そんなことよりも固有能力のクリティカル威力上昇である。
これによりファイネストアーツの火力がもっとも高くなり、パーティ随一のアタッカーとなる。
逆に言えばそれしか他のキャラを突き放す部分がないのだが……

-アヴリル
最高の魔力を誇る。
……はずが改造の補正の影響でグレッグに抜かれてしまう。
代わりに最高の攻撃を誇るようになる。
……はずが物理攻撃ではディーンやチャックがいるので最終的に中途半端になってしまう。
固有能力にDP増加がある。
……はずが発動率に問題があるのと元々のDPがあまり高くなく、さらにDP高めのキャロルがいるため、DP要員としても微妙。
WA5のヒロインと言っても過言ではないのだが悉く役割を他のキャラに奪われて不遇である。
もちろん、最終的にはの話なので途中までは仕事が多いのだが。

-レベッカ
反応が高め。
だが、圧倒しているわけではないため、少し行動回数が増える程度に収まっている。
そのため、目立った強みはないが連続攻撃とヴァイオレイターを組み合わせることで何回も殴れるのが特徴。

-グレッグ
HPと攻撃が高い重戦士型。
……に見せかけて改造補正の影響で最終的には魔力特化キャラになる。
ギャロウズコスチュームもあるしギャロウズポジションである。

-キャロル
どのHEXにでも攻撃可能かつ行動を遅らせるDPが高め。
これといって高い能力はないのだが、この能力によって存外使いやすい。
基本、回復や補助を行いながらも手が余った時に殴る分にはDPが高いというのはそれなりに役立つ。

-チャック
固有能力はHPが低いほどダメージアップ。
他のキャラの固有能力はやや限定的だが、チャックは常時発動する。
そのため、アベレージの火力が他のキャラよりやや高く使いやすい。
しかし、それでも地味である。


・シンフォギアとの関連性
これという印象的なWA5ネタはシンフォギアには存在しない。
これは金子彰史にとってもあまり自分を出せていないということなのだろうか。
天ノ逆鱗など地味にWA5を連想させるネタがある程度に留まっている。
なお、WA5にもOTONAはいる。


・シンフォギアファンへのオススメ度
前述通り、WA5は金子彰史作品としては薄味である。
だが、時折見せるイベントシーンのヤケクソ気味なテンションは間違いなく本物。
金子彰史の能力(と頭の悪さ)は遺憾なく発揮されている。
そこだけでもWA5をやる価値はあると言えよう。

なお、例に漏れずアーカイブ配信はないため、実機でプレイする必要あり。
WAシリーズをHDリメイクすればそこそこ需要があるとは思うのだが。


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