バキ道感想 第91話「相手の領域」

延々と実力差を叩き付けられて、そろそろ炎が不憫になってきた。
いや、もう許してやれよ。
でも、炎に感情移入できるほどエピソードがあるわけじゃないんですよね。
くっ、せめてストライダムでも倒していれば……!
ストライダムじゃダメだと思う。


「小結」
「生きてるかい…?」


炎を蹴った刃牙は問いかける。
とりあえず、炎の目は死んでいる。
何か心が折れましたって感じだ。
何せ自分の長所である速さの領域で完全敗北した。
肉体的なダメージはともかく、精神的なダメージはデカいようだ。

炎のメンタルを破壊することが、速さ勝負を挑んだ刃牙の狙いだったのかも。
蹴りも手加減した可能性が多分にある。
油断して柵にブン投げられた仕返しと言ったところか。
主人公のくせにやることが陰湿である。
勇次郎とは別の方面に巨凶として目覚めた感がある。
巨凶というか小凶って感じの小物臭さは否めないけど。

「互いに残り少ない余力――」
「ここはひとつ…」「どうだい…?」
「腕っぷし一本ブン殴り合いでさ――――」
「「幕」としようや」


互いに残り少ない余力ってどの口が言うのか。
炎はその通りだがあんたは余裕じゃろがい!
刃牙としてはHPの2割でも減らされることさえ、大ダメージと言えるマッチングかもしれないけど。
何か王侯貴族の感覚ですね。

ともあれ、刃牙は真っ向からの殴り合いを提案した。
だが、あくまで余裕のある刃牙の提案であり、追い詰められた炎に適した提案ではない。
この状況で真っ向ぶつかれば余力のある刃牙が勝つ。
炎としては飛び蹴りをかわして投げたように、せめて変化球で勝負したいところだ。
なのに、無理矢理直球勝負に持ち込まれてしまう。

刃牙は両腕を広げて胸を貸す。
まるで相撲のぶつかり稽古のようである。
当然、観客たちは沸き上がるし、実況の人も盛り上げてくれる。
これで炎は逃げ道を塞がれた。
受ければ不利な勝負、受けなければ相撲の名折れ。
どちらにせよ大ダメージを受ける地獄の選択肢である。

こうしたプロレス的な駆け引きは相撲には存在しない。
一方で百戦錬磨の刃牙はこの分野にも長ける。
炎が呑まれてしまうのも無理からぬことだ。
刃牙は総合力でも、炎の得意分野でも、盤外戦術でも、全ての分野で勝つ気なのか。
ちょっとやり過ぎ。子供相手にカードゲームでガチガチの環境デッキを使うような大人げなさだ。
でも、それをやってしまうのが範馬刃牙かもしれない。
このフレイザードが!

「相撲じゃないッッ」「範馬刃牙の構えじゃないかァ――――!!!」

それに対して炎は範馬刃牙の構えを取った。
ここに来て相撲ラブの炎は相撲を構えレベルで捨てたのだった。
烈が同じように刃牙の構えを取ってから武蔵に一矢報いたのだが、炎にはそんなビジョンはないだろう。

だが、炎が負けを覚悟しているのなら意外にも妙手と言えよう。
慣れない戦いをしたのなら負けても言い訳ができる。
場を盛り上げることができるし、プロレス的にはアリな負けになる。
それは実に消極的、あまりにも消極的な思考だが状況は絶望的。
それならむしろ言い訳できる負け方をした方がいいかもしれない。
褒められた選択とは言い難いが絶望的も絶望的だし、心が折れた炎ならそこに逃げても誰が責められようか。

「初めてグーで人を殴る……」

炎はここで意外な過去を吐露する。
人を殴ったことがないというバキ世界では非常に珍しい人間だ。
柔道の畑中恒三でさえ千春を殴っていたぞ。
殴ったことのない人間なんてムエタイくらいですよ。
正確には殴ることさえできなかった。

ただ殴ると言っても技術も経験もいる。
テレフォンパンチの代表格の花山でさえ、体躯を活かして相手を追い詰めたり、フェイントでタイミングをズラしたり、タフネスで耐えてからカウンターで打ったりと、相手に当てるための下準備は意外にもしている。
なので、人を殴ったことのない炎は圧倒的な技術不足で経験不足。
満足できる結果は期待できないだろう。
ただの力持ちが勝てるほど甘い世界ではないと刃牙自身が言っている。

本来の炎は喧嘩をせず、相撲を愛し、恵まれない体躯でも努力を積み重ねるそんな真っ直ぐな人間なのかも。
ふとした呟きだが歩んできた道には栄光はあまりなくとも、綺麗な道を辿ってきたことがわかる。
そんな炎の不幸は問題は範馬刃牙という生粋の邪悪と交わってしまったことか。
まさかの闇堕ちですよ。
いや、違うか?

炎は踏み込んでロシアンフック気味にパンチを放つ。
そのパンチは刃牙の顔面に触れる。
触れるが、触れた瞬間にカウンターの張り手が炎のアゴを打ち抜いた。
当然、炎は気を失う。
紅葉曰く脳震盪狙いの打撃は掌底の方がいいらしいし、打撃のプロフェッショナルらしい年季を感じさせる一撃だ。
というか、全然余力ありますよね。

こうして炎は地面に向けて絶対に起き上がれない倒れ方をするのだった。
炎の反撃は幾度かあったものの、終わってみれば圧倒的な実力差で刃牙が勝負を制した。
下馬評通りすぎる展開であった。
いや、小結が下馬評を覆しても困るんだけど。
そんなことが許されるのは本部がギリギリですよ。わりと真面目に。
余談ながら当バキ感想で一番閲覧数が多かったのは、本部が刃牙に勝った話だったりします。

今の刃牙は小結が挑むには強く、そしてデカくなりすぎた。
バキ世界の強者代表だから負けるどころか苦戦さえ許されない。
20年ちょっと前の刃牙ならもうちょっと善戦できたかもしれない。
いや、20年前の時点でも困るか?

ともあれ、これで地下闘技場戦士サイドは全て終わった。
次の試合は待望?の宿禰の出番だ!!
読者よりも宿禰の方が待ち望んでいただろう。
何せ鳴り物入りの新キャラのくせに出番が少なすぎ。
ライバルキャラのくせに範馬刃牙同然の扱いを受けている。

でも、宿禰も刃牙同様に苦戦さえ許されない立場だ。
エア相撲とはいえ四股が足りないと断じていたし、サクッと勝ってもらわんと。
大相撲との謎の争いもサクッと終わらせて欲しい。
勢力図がゴチャゴチャしすぎて話が整理されていない時のガンダム状態ですよ。
いや、勢力が二つだけのはずなのに何のために戦っているのか、いまいちわからないんですけどね。

相撲の原点を蔑ろにする大相撲に鉄槌を……というのは、宿禰の故郷にいる小坊主の理屈だ。
宿禰本人は大相撲に何を望んでいるのかはどうもわからない。
そこも含めてそろそろ表明して欲しいものである。
次週休載を挟んで次回へ続く。